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間章  報復(1)

------ アルフレッド視点 -------------


「いいんですか? 家族団らんに出なくて」


 いとこの結婚式の後、キーファーは早々に案内された部屋に引っ込み、そこから出ようとしない。


 当然、私も一緒にキーファーに従って傍にいる。キーファーは布団に寝転ぶと、天井を眺めながらつまらなそうな口調で言った。


「いいんだ。俺がいると邪魔だから」


 少し拗ねているらしい。


「そんなことを考えずに、出たければ出ればいいじゃないですか」


 そう言った瞬間に、キーファーはにやりと笑う。


「アニキが明日は、俺に付き合ってくれるって」


「え?」


「ま、暴力沙汰はダメだって釘を刺されたけど、明日一日、東京見物とやらをさせてくれるらしい」


 さりげない口調で言いつつも、頬がほんのり赤くなって、目が潤んで、まったく恋する少女のようだ。いつものことながら、これはこれで妬ける。私に見せる表情とはまた違う、あの方にしか見せない表情。


 寝転がったキーファーが、何かを思いついたように身体を起こした。


「フレッド。明日、決行する。できるか?」


 私はにやりと嗤い返した。


「お待ちしていました。いつでも。用意は万端です」


「じゃあ、明日、けりをつけよう。アニキの前で」


 その言葉に私は頷いた。


 翌朝は晴天。キーファーは浮かれたようにジャラジャラとアクセサリーをつけ、そしていつも通りにわけの分からない格好をし始める。どこの国であっても、この格好は目立つだろう。奇抜なファッションが少ない日本ではことの他目立つ格好だ。


「キーファー。少し抑え目にしておいたほうがいいですよ。日本だと特に目立つ」


「いいんだよ。好きな格好でいいって言ってたから」


 浮き浮きとした風情の彼の横で、私はいつもどおりのスーツに袖を通そうとして、キーファーに止められた。


「フレッド。今日はスーツ禁止」


「え?」


「私服、持ってきているだろう? 今日は俺とデートだ」


「…あの方は?」


「三人でデート」


 浮かれたキーファーの言葉に頭を抱えつつも、まあいいかと、私服に着替えた。脇の下にホルスターを吊るそうとしたら、それもキーファーに止められた。


「下手なものを持っていって、アニキに世話を焼かせないように」


 しかし丸腰という訳にはいかない。仕方なく足首にだけ小型拳銃を隠しておく。


 茶の間に行けば、あの方…私のマスターであり、キーファーが『アニキ』と慕うリーデル様が座ってお茶を飲んでいた。こういう風景を見ることになるなんて、何か不思議だ。


「お待たせっ! アニキ」


 キーファーはご機嫌に声をかけた。


 運転をするという私を断って、あの方がハンドルを握る。その横にはキーファー。私はこの状況下でのバックシートに少しばかり緊張する。上役二人が前にいて、私がゆったり後ろでいいんだろうか?


 キーファーは嬉しそうに窓を眺め、運転しているあの方を眺め、忙しい。そんな姿を後ろから見ていれば、また妬けてくるが、こればかりは仕方がない。


「さて。どこへ案内しようか? 浅草? お台場? 変わったところだと秋葉原とか?」


 あの方の言葉にキーファーが少し考え込んでから答えた。


「どこでも。アニキが見せてくれる風景なら、どこへでも」


「うーん。それが一番困るんだけどなぁ」


 彼は柔らかく笑ってから、ハンドルを切った。


「じゃあ、僕が見ている風景を見せてあげるよ」


 そう言って彼が連れてきたのは、大きなタワーだった。東京を一望できるタワー。その天辺から見る風景は、すべての景色が下にある。展望台に登れば、われわれは注目の的だ。


 なんと言ってもキーファーがいる。ちらちらと周りがこちらを見る中で、キーファーは構いもせずに、あの方の傍で浮き浮きした雰囲気で話をしていた。


「アニキが見ている風景?」


「そう。僕が飛ぶときに見る風景」


「あっ」


 キーファーが窓に張り付く。


「こんな風景、見てるの?」


「うん。そうだね。夜だけどね。さすがに昼はね」


 キーファーの隣に立つマスター。この方には翼がある。私は見たことがないが、漆黒の綺麗な翼で、飛ぶことができるそうだ。昔一度だけ、キーファーは一緒に飛んだと言っていた。


 キーファーが地図を取り出す。


「アニキ、今、ここどこ?」


「え? これ何? 東京地図?」


「そう」


 キーファーの手元の地図をマスターが覗き込んだ瞬間に、キーファーから私に視線が送られてきた。


 今だ。


 そういうことだろう。


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