表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
575/639

間章  思い出

----------- クリスタル視点 ------------


 セピア色のアルバートとねねの写真に対してグラスをちょっとだけ持ち上げる。


「乾杯」


 小さな声で呟いても誰からも返事がない。皆、それぞれの部屋に引っ込んでしまった。娘のレイラはリーデルの部屋に行ってしまったし。あの二人は納まるべきところへ納まったというべきで。


「へんな感じ」


 もう一度呟いてみた。


 とっても大好きで。本当に大好きだったアルバート。一族の長であり、自分の兄。でも彼が選んだのは、ねねだった。黒髪のエキゾチックな女性。


 彼が私を選んでくれなかったことは凄く残念だったけれど…それでも納得してしまうぐらいねねも素敵で。一目見て彼女のことを好きになった。


 アルバートもねねも大好きで。大好きだったからこそ、アルバートのことを諦められた。


 ううん。諦めたんじゃなくて、我慢したのよね。諦めてなんかいなかった。それでも…ねねも好きだったから、関係を壊したくなくて、自分の気持ちを押し込めた。


 彩乃を見るたびに、ねねを思い出す。まっすぐな黒髪。可愛らしい姿。似ているけれど、ねねではない。その証拠に、ほら。選んだ相手はリーデルじゃなかった。


「ねぇ。ねね。あなたの娘は、サムライを選んだのよ。不思議よね」


 ねねは遠い海を渡ってアルバートと一緒になり、その娘は極東の島でサムライを見つけて伴侶に選ぶ。


 そして彼らの息子は私の娘を伴侶に選んだ。


 ふと思う。


 もしもアルバートが私を選んでいたら? どうなっていたかしら。でも…想像できなかった。ねねが居ないなんて…。それだけ私は、ねねを好きだったの。


 ねねの知らないところでアンバーと張り合っていたんですもの。どちらが、ねねを喜ばせられるか。ねねの笑顔が多かったほうが勝ち。それぐらい私たちは、ねねが好きだった。


 私と双子だったアンバー。まったく正反対の性格と言われていたけれど、ねねを好きなことは同じだった。それでも、ねねのことを一番大切に思っていたのは、きっとアルバートだったわね。本当に仲がいい夫婦だったもの。


 アーサー・アルバート・リーデル…。息子のほうのリーデルは自分の名前がアルバートから来ているって知っているのかしら? 父親を嫌っている彼のことだから、凄く嫌な顔をしそう。思わず想像して笑いが洩れてしまった。


 アルバートは代々続くアーサーという名前を気に入っていて、AAで名乗ることが多かったから、知らない可能性のほうが高い。教えるべきかしらね。教えたら、あの言いにくい、ねねがつけた名前で呼べって言われるのかしら。


 色々と考えているうちに、少しだけ眠くなってくる。そう言えばここ数日、寝てなかったわ。


 明日は…どうするんだったかしら。ああ。そうだ。レイラが買い物に付き合ってくれるのよ。リーデルはキーファーに取られるって言っていたわね。


 たまには親孝行してもらいましょう。すっかり大人になってしまって、娘というよりも妹みたいだけれど。


 眠りに落ちる前に亡くなった夫を思い出す。レイラの父親。


「2番目でも、3番目でもいいよって言ってくれたけれど…思い出すのも遅くなっちゃった…。ごめんなさいね」


 そう呟いて。でもきっと許してくれるわ。とっても優しい人だった。のんびりしていて。とても愛してくれて。そして一族にまで加わってくれた。


 彼のことも大好きよ。


 この世に肉体はなくても、好きだった人たちのことを思い出すのは自分の中の宝箱を開けるのと同じこと。キラキラした大切な記憶の中で生きている人たち。


 おやすみなさい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ