第5章 大和屋燃ゆ(7)
「何を笑ってるんですか!」
「あ、ごめん」
「ごめんじゃないです! 悔しいでしょっ! 自分が認められる機会が失われたんですよ!」
「そうだね」
僕は総司から視線を外して空を見上げる。とても晴れ晴れとしていた。
今日もいい天気になりそうだ。
僕は屈託のない声で総司に言った。
「ま、機会なんて、そのうちまた来るよ」
総司がため息をつく。
「何言ってるんですか…。機会を掴む気が無かったら、何度、機会が来たって無駄になるんですよ」
「あはは。そうだね」
--------Take the Fortune by the forelock.
「え? なんですか?」
僕の呟きを総司が聞きつけた。
「あ、いや。幸運っていうのは女の神様だっていう話があってね。それが凄い勢いで後ろから前に走って来るんだよ。通りすぎて、気づいて、捕まえようとするんだけど、その神様は前髪しかないから、捕まえられないって話」
「前髪しかない女の神様…」
全力疾走する前髪しかない吉祥天みたいのを想像してるんだろうな。総司が唖然とした後で、ぷっと吹き出した。
「凄いですね。俊のお国の神様ですか」
「そうだね」
本当は運命とか幸運とかを表すfortuneの語源は、Fortunaというローマ神話の女神だって言われてる。まあ、かな~り広い意味で僕の国の神様かな(笑)
ちなみにローマ神話にも神様がたくさん出てくるけど、日本も負けちゃいない。八百万の神といわれるけど、本当にその通り。天津神、国津神。インドの神様も取り込んで、その土地独自の神様も取り込んで、人間すらも神様にしてしまう。菅原道真公とか、平将門公とかね。だからどんな神様がいたって、あんまり驚きはしないんだろう。
「前髪だけですか。袖とか摑んだらダメでしょうか」
「うーん。聞いたことないから、袖、ないんじゃない?」
「裾は?」
「それも聞いたことないから、裾もないかも」
「それって…」
「裸か?」
「裸ですか!」
馬鹿二人。
僕たちはいつまでも笑っていた。
その後、全員に通達がされた。組織がしっかりと分けられ、僕と彩乃は一緒の組で、総司が組長だった。




