間章 家系
-------- (彩乃の友人)千津視点 -------------
彩乃ちゃんの結婚式に呼ばれたっ。呼ばれたのっ。嬉しいな~。
だってね。彩乃ちゃんのお家の人って、凄くかっこいいんだよ~。それを今日は実況中継します。じゃじゃーん。
って…一人でやってもむなしい…。でもね。きっと友達も皆びっくりすると思うの。それを考えると楽しみです。はい。
大学の友達と待ち合わせて教会に向かう。
久しぶりの大学と友達。まだ半年しか経ってないけど、すごく久しぶりに感じる。
「彩乃もいよいよ結婚か~」
「早いよね。私なんて彼氏もいないのに」
そんなことを話ながら教会に入っていく。新婦側はこちらといわれて真ん中ぐらいの席に座っていたら、新郎側には柳瀬君たちが現れた。
一緒にいるのは総司さんのお弟子さんたちだね。
あ、南部くんも居た。私が小さく手を振ると、彼も手を振ってくれた。
何度か彩乃ちゃんのお稽古を見にいったから、知ってるんだよ。でもそれ以上じゃないのが、ちょっと寂しいけど。
結婚式は素敵だった。彩乃ちゃんは白いドレスを着ていて、本当に綺麗だった。
きゃーきゃー言いながら写真撮っちゃった。彩乃ちゃんは色も白いし、美人だからドレスを着るとお姫様みたい。
そして結婚式が終わった後は、学食で立食式のパーティーだった。
私たちの目の目に、教会の最前列に座っていた親族の人たちがずらりといる。隣で一緒に来た友達が興奮した声を出した。
「ねぇ、ねぇ。千津! あの人たち誰? 彩乃ちゃんの関係? 総司さんの関係?」
「あれ、彩乃ちゃんのお兄さんだよね。入学式のときに会ったけど、やっぱりカッコイイっ!」
けれど次の瞬間に、その友達のテンションは下がった。
「お兄さんの傍に…美女がいる…」
思わず笑ってしまった。何回か会ったことがある。彩乃ちゃんのいとこのレイラさん。お兄さんの恋人になったって、彩乃ちゃんが言ってた。
やっぱり前に見た黒猫のぬいぐるみは、お兄さんのつもりだったらしいの。大人に見えるのに、ちょっと可愛いよね。
「あそこにいるの、多分、彩乃ちゃんの親族だよ」
私がそう言ったとたんに、『えっ?』と一緒にいた皆が私を見る。へへ。驚いてる。驚いてる。
「お兄さんの隣にいるの、彩乃ちゃんのいとこだもん」
「金髪だよ?」
「うん。レイラさんって言うの。でも日本語、上手だよ」
「その隣は?」
さっきまでお兄さんと話していたレイラさんは、今度は反対側の人と話を始めていた。レイラさんに凄く似ているけど、ちょっと年上な感じ。
「お姉さんかなぁ。レイラさんに似てるよね」
「本当だ…。その隣は誰かな」
すらりと背が高い綺麗な顔の若い男の人。男の人? だよね? スーツ着ているし。長い髪を後ろにまとめているのがお洒落な感じ。さらにその隣にいるまじめな雰囲気の若い男の人は、なんとなく彩乃ちゃんのお兄さんに似ていた。
「ん~? お兄さんの兄弟とかなのかな。似てるよね?」
「うん。似てるね」
「その後ろにいる背の高い男の人もお兄さんに似てるよ。顔っていうより雰囲気?」
友達の声に視線を移せば、たしかに似た雰囲気の人。こちらはちょっと年を取っているから、お兄さんとか…叔父さんとか…かもしれない。目が青いけど、レイラさんだって従兄弟だから、うん。多分、親族だよね。
友達がほぉっとため息をついた。
「凄いね。美形の一家だよね」
「うん。そうだね」
レイラさんが私に気づいて、会場を横切って歩いてくる。青いホルターネックのワンピースに、綺麗に伸びた足。周りの男性の視線がレイラさんを見ているのがわかる。
「千津。久しぶりっ」
「こんにちは~。レイラさん」
友達の視線を感じて、私は皆を紹介した。にこやかに挨拶するレイラさん。
「レイラさん、私たち、皆が誰だろうって思っていたんです。教えてもらってもいいですか?」
そう言ったとたんに、レイラさんがにっこりと微笑む。
「もちろんよ。いらっしゃい」
え? ここから教えてもらえればよかったんだけど…。
そう思ったけれど、レイラさんは私の腕をがっしり掴むと、皆を促して美形の一団の中に突っ込んでいった。
そしてとたんに英語で何かを喋りだす。
わーん。早くて聞き取れないよ~。
困った顔をすれば、美形の中の一人、彩乃ちゃんのお兄さんに似た年上っぽい人が微笑んだ。意味はわかんないけど、とりあえず笑う。
わかんないときには笑ってしまえ~。
「皆に、あなたたちが彩乃の友達って説明しただけよ」
レイラさんが言って、そして最初にレイラさんそっくりの人を紹介する。
「こちらはクリスタル」
「Hi! I'm Crystal, Layla's sister. I'm very glad to see you!」
えっと…クリスタルさんはレイラさんのお姉さんなのね。出された片手を慌てて握り締めて挨拶をする。
「Nice to meet you.」
次々と友達と握手するクリスタルさんをレイラさんが、呆れたような目で見ている。隣で彩乃ちゃんのお兄さんがくすくすと笑っていた。何か面白いことでもあったかな?
「えっと、彼は…キーファー」
レイラちゃんの傍にいた中性的な人がこちらをじっと見た。ちょっと怖い。
ちょっと怖気づいていたら、お兄さんが何かをつぶやいて、次の瞬間にキーファーさんがにっこりと笑顔を浮かべた。
「はじめましてっ! 俺、キーファーっ! 彩乃とアニキのいとこっ! よろしくっ!」
すっごいハイテンション。しかも日本語。
「日本語、お上手ですね」
「うんっ! アニキが勉強しろって言ったから、したっ!」
そのハイテンションのまま、両手を握られて、ぶんぶんと上下に振られた。そこをその隣にいた男の人が抑える。
「キーファー。そんなに乱暴に扱ったらお嬢さんを壊してしまいますよ」
そう言ってそっと手をはずしてくれる。
「私はア…フレッドです。今日はキーファーの付き人です」
「はじめまして」
ちょっと彩乃ちゃんのお兄さんに似た雰囲気を持つ、落ち着いた感じの人。この人もカッコイイよね。
友達なんて手を握られながら、ぼーっと見てたもん。
「千津。彼はザック叔父さん」
「Hello. I'm Zacharias. Please call me Zac.」
あ。これぐらいの英語ならなんとか。えっとザカライアスさんで、ザックって呼んでねって言われたのね。
「Hello. Nice to meet you. I'm Chizu.」
挨拶をしたら、片手をふっと握られて口付けられた。わわわ。
思わず固まったら、ザックさんが片方の眉だけをあげる。
レイラさんが何かを言って、ザックさんの眉が下がった。何かを早口で言われたけれど、聞き取れなくてレイラさんを見れば、通訳してくれる。
「ついうっかりやったから許してって」
ザックさんに視線を移せば、ばちりと綺麗なウィンクをされた。
「あ。はい」
凄い。なんか日本の文化じゃないよね。あまりにもはまりすぎてる~。
「ザック叔父さんは、彩乃たちのお父さんの弟なのよ」
あ、だから彩乃ちゃんのお兄さんと雰囲気が似てたんだ…。
英語と日本語が入り混じる空間で、私は彩乃ちゃんの親戚とお喋りをしていて、なんか不思議な雰囲気だった。
彩乃ちゃんと総司さんのパーティーは楽しくて、あっという間に終わりました。私もいつか、あんな結婚式をしたいな~。




