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The Wedding Day (6)

「親族の方は先にご退出ください」


 牧師に促されて、僕らは先に教会堂を出て、出口に並ぶ。ここに並んで出てくる参列者を待って、お礼を言うわけだ。一種の花道を作るって、日本風だよね。二人が決めたことだから文句を言わずに、言われたとおりにやることにする。


 並んだのは、僕はもちろんのこと、ザックおじさん、レイラ、クリスタル。トシと近藤さん。親族が少ないのもあるけれど、ザックおじさんとクリスタルは彩乃のお友達を見たいというのがあったらしい。日本式を楽しんでいるっていうのもあるね。うん。


 ちらりと親族から離れた場所にいるキーファーを見れば、非常に大人しくしていた。フレッドが僕の視線に気づいて、にやりと嗤ってくる。


 総司たちとも合流すれば、総司の傍で妹がにっこりと笑った。あれは…彩乃だな。もう戻ったらしい。


「考えたな」


 僕がそう言えば、総司がへにゃりと笑う。


「彩乃がリリアも式に参加したいはずだって言って。どうにかしたいと思ったんですよ。いろいろ調べて、周りに悟られずに入れ替われる一番いい瞬間を狙ったんです」


「確かにね。あのタイミングしかないな」


「ええ。そうでしょう?」


 総司は誇らしげに言った。


 リリアと彩乃が入れ替わる瞬間には、身体の力が抜けてしまうから、誰かが支える必要がある。あのタイミングなら総司が支えてもおかしくなかった。


 ま、ちょっとばかり情熱的なお婿さんになってしまったが、それはそれでアリだな。


 結婚式の後は集合写真。フィルムは買い取りというので撮影することにした。それから大学の学食で披露宴。二次会も兼ねた形の立食形式だ。


 彩乃と総司は、あちこちで一緒に写真を撮ろうと引っ張られていた。傍にデイヴィッドが寄ってくる。


「デイヴィッド。警備はいいの?」


 意地悪で言ってやれば、真顔で返事がきた。


「ジャックと30分交代。式に出られなかったのは残念だけど、彩乃のドレス姿を見ないでイギリスに帰れないわ」


 そこでふっとデイヴィッドの眉間に皺が寄る。


「ねぇ、マスター。いいの? 写真なんて残して」


 僕は肩をすくめた。


「いいんじゃない? 彼らもずっと日本にいるつもりはないだろうし。それに…今の時代、デジタル写真なんて証拠にならないよ」


 そう。昔の写真は警戒が必要だったけれど、今はいくらでも加工ができるデジタルだからね。逆に信憑性は薄くなったよね。


「ああ。確かにそうね。じゃ、あたしも撮ろうっと」



 デイヴィッドはいそいそとカメラを片手に彩乃たちのほうへと歩いていった。結局、自分が撮りたかっただけらしい。やれやれ。


 彩乃の友人たちや総司の弟子たちがお祝いのスピーチを行い、歌を歌った。


 ま、素人の歌だから聴けたもんじゃないけれど、それでも気持ちはこもっている。彩乃の友人の中には感極まって泣き出す娘もいて、彩乃もそれを見てうっすらと涙を浮かべていた。


 ケーキ入刀やら、キャンドルサービスやら、ひとしきり結婚式の出し物が終わったところで、ぱっと電気が暗くなって、スポットライトが当たる。


 その光の輪の中に居たのはキーファーだった。


「はい?」


 思わず僕がパチパチと目を瞬いたけれど、間違いではないらしい。彼がギターを抱えて、座っている。


「それでは新婦のご親族、キーファーさんによるギター弾き語りです」


 司会をしてくれている彩乃の大学の友人がマイクを通してアナウンスした。そんな話、聞いてないんだけど?


「ニューヨークで本格的に歌手活動をしていたこともあるそうです」


 はぁ? いつそんなことやってたんだ?



 ポロンとギターが鳴って、彼の口から歌が流れ出した。僕は世界を変えることができる…という意味の英語の歌詞が耳に届く。多分、みんな一度は耳にしたことがあると思う有名な曲だ。


 素晴らしい歌声だった。キーファーがこんな特技を持っていたなんて知らなかったな。



 僕は君の世界の中で太陽の光となるんだ。


 そう歌う彼の最後のフレーズは、オリジナルをちょっとだけ変えてあった。


 本来だったら、もしも世界を変えることができるなら…と仮定法で続くんだけれど、僕は世界を変えてみせるよ…と決意の歌が続いていく。


 キーファーがちらりと僕を見て、それから彩乃たちを見る。にっと笑ってから、彼はそのままギターを引き続け、次の曲に入った。


 軽い雰囲気のパッへルベルのカノンが流れたと思ったら、彼の歌声が重なってくる。


 素晴らしい世界に素晴らしい日。人生には良いときもあって、悪いときもあるという内容の歌詞は、結婚式にぴったりだ。


 会場から軽く手拍子が始まったと思ったら、みんなが手拍子をし始めた。

 

 ここまで彼が空気を読めると思わなかったよ。うん。いやいや。恐れ入った。


 彼が歌い終わった瞬間に、会場から拍手が沸きあがる。


 キーファーの視線はじっと僕を捕らえていた。僕が右手を握って、親指を上向きに立てて突き出して笑ってやれば、キーファーは一瞬目を見開いて、それから


「イヤッホーっ!」


 そう奇声を発して、ギターを抱えたまま宙返りをした。これには会場一同が驚いたけれど、彼のパフォーマンスの続きだと思ったらしい。


 また拍手が沸いた。


 僕は反省していたけれどね。キーファーを喜ばせ過ぎた。


 もう一回転ぐらいしそうなキーファーをアルフレッドが慌てて抑えにいく。それはまるでコメディみたいで、会場から笑いが溢れていた。


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