The Wedding Day (5)
扉の前に待っていたのは彩乃だ。ドレスの上半身は肩を覗かせたデザインで、ほっそりとした首筋にはパールの一連ネックレス。スカート部分はふんわりしていて、裾が長いシルエットは彩乃をより美しく見せていた。
アップにした髪の毛にもパールが散らされた上に、ティアラがあり、ベールをかぶっている。
「お兄ちゃん」
「いいじゃない。彩乃。似合うよ」
そう言ってやれば、彩乃が恥ずかしそうににっこりと笑った。
「総司さんと二人で選んだんだよ」
「うん。良かったね。いいよ。凄く似合う」
手放しに喜べば、ほんのりと頬が染まった。手袋をした手に白いブーケを持って、にっこりと笑う妹は本当に幸せそうだ。
「そろそろかな?」
僕がそう言ったとたんに、ジャーンとオルガンの音が鳴り響いた。結婚行進曲。
僕が彩乃に腕を差し出せば、彩乃がそっと掴まってくる。
「右足からね」
「うん」
扉が開いて、僕らは歩き出した。
右出して。そろえる。左出して。そろえる。決められた歩き方で真っ白い布が敷かれた席の間を歩いていく。いちいち足をそろえるのが面倒くさい。実際にやってみると、本当に独特な歩き方だ。
彩乃の手が震えている。
「緊張してる?」
他の人に聞こえないように言えば、彩乃も囁き返してきた。
「うん。ちょっと」
「大丈夫だよ。ここはカボチャ畑だ」
「お、お兄ちゃん?」
「またはジャガイモ畑。緊張する必要なんてない」
「ちょっと、ダメだよ。笑っちゃう。それに酷いよ。わたしの結婚式なのに」
「はいはい」
でも緊張は解けたのだろう。震えは止まっていた。
「お兄ちゃん…わたし一生忘れないよ。きっと。バージンロード歩きながら、お兄ちゃんに笑わせられたこと」
「良かったじゃない。思い出ができて」
ぷっ。微かに彩乃が吹き出す音が聞こえた。
ようやく総司のいる場所まで来て、僕と交代だ。ちらりと見れば、総司も緊張した面持ちで僕と目があった。にっと嗤ってやる。
「あとはよろしく」
微かに言うと、僕は自分の席についた。
牧師さんの発声から、聖歌隊の歌、聖書の朗読に説教。滞りなく式は進み、指輪の交換に来た。レイラとトシがそれぞれの場所から立つ。
トシが指輪を差し出し、レイラが彩乃からブーケと手袋を受け取った。そして指輪が交換され、ベールが持ち上げられる。そっと総司がキスをして…と思ったら、総司はがっしりと彩乃の腰を抱きしめた。
とたんに会場から沸き起こる冷やかしの声とフラッシュ。彩乃が目を閉じて、唇が合わさった次の瞬間にカクンと一瞬力が抜けた。
え? 彩乃?
何があったかと焦った僕の前で、ゆっくりと彩乃の瞳が開いていく。にっと唇の両端が持ち上がり、総司に笑いかけた。そしてもう一度、今度は彩乃からキスをする。
巻き起こるフラッシュ。
あれは…彩乃じゃない。あの笑いかた、表情。リリアだ。
唇が離れた瞬間、とっても嬉しそうにリリアが笑った。総司もにっこりと笑う。
「いい人を見つけたじゃない?」
この交代劇に気づいたレイラが隣で囁いた。まったくだ。僕も微笑んだ。
「ああ。彩乃とリリアの相手として、最高だよ」
ああ。良かった。本当に良かったと思う。
総司はリリアをも受け入れてくれただけではなくて、きちんと彩乃とリリアそれぞれの幸せも考えてくれている。
なんとなくは聞いていたけれど、今、目の当たりにして、妹の幸せを実感する。本当に良い奴に妹は恋をしたと思う。
再度、結婚行進曲が鳴り響く。僕と歩いてきたバージンロードを、今度は総司と二人で歩いていく。
元気に周りに手を振る妹の姿は、彩乃としては元気過ぎたけれど、でも嬉しいんだと理解すれば違和感はない。




