The Wedding Day (4)
総司が着替えに行き、トシはそれに付き添い、僕と李亮だけが残される。
「ジャックとデイヴィッドは?」
「外の警備を…。さっきまで屋根の上にいました」
李亮はイギリスに行ってからも日本語は勉強していて、さらに英語も勉強していた。
だいぶ綺麗に日本語を話すようになったよね。うん。…って、屋根の上?
「え? デイヴィッドたち、屋根の上に居たの?」
「はい。高い場所からの狙撃を警戒しておくと」
僕は頭を抱えたくなった。狙撃って…。誰が狙撃されるんだよ。ま、いっか。彼らだったら、キーファーほど目立つことはしないだろう。
カタンと軽くドアが開く音がして、振り返れば、また入ってくる人が…。
「おう。リー。久しいな」
英語で挨拶して、バンバンと僕の背中を叩く大きな手。やや赤みがかった髪に青い眼で、顔つきはちょっとだけ父さんに似ている。
「ザック叔父さん。ようこそ日本へ。お久しぶりです」
そう挨拶すれば、叔父さんは嬉しそうに目を細めた。
ザック叔父さん。ザックは愛称で本当はザカライアスという名前だ。父さんの弟。お祖父さんは少々茶目っ気がある人だった。
父さんがアルバート(Albert)、叔父さんがザカライアス(Zacharias)で、AとZをそろえた気分だったらしい。
その後に双子の女の子が生まれちゃったんで慌てたという話を聞いていた。結局女の子には、そういう遊びはせずに、アンバーとクリスタルと名づけたと言ってた。
いや。でもさ。今考えると、アンバー(Amber 琥珀)とクリスタル(Crystal 水晶)と揃えた時点で遊んでるな。うん。
ちなみにアンバー叔母さん…えっと、叔母さんって呼ぶと二人とも嫌がるんだよ。だから名前だけで呼んでおこう。
アンバーはキーファーのお母さんで、クリスタルはレイラのお母さんだ。残念ながらアンバーはすでに亡くなっている。
「久しぶりだな。あれ以来か」
叔父さんが言う『あれ』というのは、父さんが亡くなった後の家督継承式だ。だから会ってないのは二十年弱ぐらいかな。僕は肩をすくめた。
「まあ、二十年なんてあっという間ですけどね」
「そうだな」
にやりと笑う叔父さんの顔は父さんとよく似ていた。
「ごめんなさい。遅れちゃったかしら?」
ドアが開いて入ってきたのは、クリスタル。レイラより十歳ぐらい年上に見えるだけで若々しく美しい。
レイラは父親のほうに似て金髪だけれど、クリスタルの髪は茶色だ。そしてレイラと同じ緑色の瞳。
ファッションショーから抜け出してきたんじゃないかというぐらいのおしゃれなスーツを見事に着こなしている。
「ああ。リーデル。良かった。遅れたと思ったわ」
「大丈夫ですよ。親族だけちょっと早いんで」
彼女はきょろきょろと見回した。
「彩乃は?」
「控え室。着替えてます」
「お婿さんも?」
「ええ。彼も準備中ですよ」
ザック叔父さんがちらちらと周りを見回す。
「あの煩いのは来ているのか」
「ああ。キーファーね。来てます。お目付け役も一緒なんで、比較的静かですよ」
クリスタルがほっとしたように笑顔を見せたので、僕は思わず笑ってしまった。
ザック叔父さんの視線が僕の後ろに止まる。僕も後ろを振り返れば、李亮がいた。
「彼は僕の秘書です。李亮」
「はじめまして」
李亮が綺麗な英語で挨拶をした。
「えっと…」
「彼も一族です」
ザック叔父さんの躊躇を理解して答えれば、安心したように笑う。そして大きな手を李亮に差し出した。
「リーデルの叔父のザカライアスだ」
「李亮です」
「私は叔母で…レイラの母のクリスタルよ。よろしく」
クリスタルもにこやかに挨拶をする。李亮は背筋を伸ばして、どうどうと二人と握手をしていた。李亮も僕と一緒に仕事をすることもあるから、こういうのに本当に慣れたよね。頼もしいよ。
当たり障りのない雑談をしていると、徐々に参列者が集まってきた。
親族は最前列だ。彩乃の側には、僕の席があって、その隣がレイラ。クリスタル、ザック叔父さん。それから僕の後ろにキーファー。そしてフレッド。キーファーが僕の隣に座りたがったけれど、レイラが阻止し、レイラの横にクリスタルが座ったから、そんな順番になった。
面白くなさそうなキーファーはフレッドがなだめている。後ろにいるほうが、マスターをずっと眺めていられますよ…とフレッドが言ったとたんに、キーファーは大人しくなった。見つめられすぎて僕に穴が開くんじゃないだろうか。
海さん、小夜さん夫妻は中ほどの席に、李亮は遠慮して一番後ろの席に座った。
総司側には、トシ。それから近藤さん。近藤さんは遠慮していたけれど、この世界で総司の親族と言えるような人はいないから、トシが一緒に座ろうと言って近藤さんも最前列に座らせていた。
祭壇の前に待つ総司。かなり白に近いけれど、実はブルーグレーの上下のタキシードが細身の体によく似合う。それだけをちらりと見て、僕はそっと脇のドアから抜け出した。




