The Wedding Day (3)
二人がキーファーとフレッドを見て、そろって首をかしげた。彩乃と総司、似たもの夫婦になるな。うん。
「えっと…誰?」
「どなたです?」
僕が紹介するよりも早く、キーファーが軽く両手を広げながら、二人の前に進み出る。
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございますっ! アニキのいとこっ! キーファーです」
片手は腰に添え、片手を伸ばして体の前に下ろすと、深々と挨拶をした。
その芝居がかった動作に二人が目を丸くする。
「キーファー。僕のいとこってことは、彩乃のいとこでもあるんだけど」
僕がそう言うと、キーファーはにやりと嗤って、威嚇するように二人を見る。彩乃がすぐに総司の後ろに隠れたのを見て、僕は彼の頭を叩いた。
「あのね。彩乃を脅かすようだったら、ここから追い出すよ」
そう言った瞬間に、キーファーはいきなり彩乃に駆け寄って手を握ろうとして、総司に拒まれる。それでも迫るように近くによって、キーファーは彩乃に声をかけた。
「ごめんなさい。全然、脅そうなんて思ってないから。殺しちゃおうなんて、思ってないし」
いや。それを口にしている時点でおかしいって。
「アニキと一緒に住んでたのがうらやましいとか…そんなことも言わないし」
言ってるって。
彩乃に近づこうとするところを総司が体で阻止して、キーファーが回り込もうとするところに、また総司が体を張る。その動きが早くなって、三人がくるくる回るんじゃないかと思ったところで、キーファーの首根っこをフレッドが押さえた。
「キーファー。あなたはこっちに居てください」
ずるずると二人から引き離されるキーファー。
フレッドが居てくれて良かったな。うん。
「彩乃。そろそろ着替えましょうか? ドレスの着付けもあるけど、その前に化粧して髪を整えないと」
レイラが声をかければ、彩乃がほっとしたような表情を浮かべる。
「じゃ、私たち、行くわね」
レイラが彩乃を伴って、控え室のほうへ向かった。
総司が僕の横でキーファーを睨んでいる。
「あ~。総司?」
「はい」
「怒んないでくれるかな。キーファーは…、まあ悪気はないから」
「悪気があったら、刀を抜いてますよ」
「刀…ここにないけどね」
「素手でも殺ってます」
いやいや。やめようよ。そういう物騒なのは。
「キーファーも反省しているし…多分」
「うんっ! してる。俺、反省してるよっ! アニキが言うなら、いくらでも反省するっ!」
僕は思わず脱力した。となりで総司もあっけにとられている。
キーファーの頭を思わずフレッドがぽかりと殴ったところで、それまで黙っていたトシがキーファーに向き直った。
「そういや…いつぞやは、世話になったな」
そう言った瞬間に、キーファーの目が細められ、フレッドは何の感情も表さない目で、トシのことを見た。
思わずたじろいだトシをキーファーが冷たい目で見る。
「俺はあんたの世話をした覚えはないけど?」
やれやれ。
「キーファー。彼はトシ。僕の眷族。それに信頼している仲間だから。そういう態度は取らないでくれるかな」
そう言ったとたんにキーファーが恨めしそうに僕を見る。
「アニキっ。信頼してるって…。俺は? 俺は?」
「キーファーのことも信頼してる。信頼してなきゃ、電話したりしないでしょ」
そう言った瞬間に、キーファーはくるりと宙返りを決めた。
「やったっ! フレッド、聞いた? 聞いた? アニキが俺を信頼してるって」
「はいはい」
トシが僕の肩を人差し指でトントンと叩いてきた。
「おい。こいつは何だ?」
「だから、僕のいとこだって。とにかくあまり触れないで」
「お、おう」
僕はまだ騒いでいるキーファーを横目にフレッドに向き直った。
「悪いけど…キーファーを隔離しておいて」
「ひ、酷い~。アニキっ!」
「かしこまりました」
「フレッドっ! 普通に返事するなよぉっ!」
キーファーの文句などなんのその、フレッドはそのままキーファーの襟首を掴むと、ずるずると外に連れ出していく。
「アニキ~っ!」
まるで今生の別れのような叫びを残して、キーファーはドアの外に消えた。
ふっと振り返れば、びっくりしたようにこちらを見ている牧師さんと聖歌隊の人たち。僕は思わずへらへらと笑った。
「あ、お騒がせしました~。式の最中は静かにさせますので、お気になさらず」
そう伝えれば、我に返ったように動き出す。まったく。キーファーのおかげで心配になってきたよ。




