The Wedding Day (2)
逸らしそうになった僕の視線を戻すように、勢いよく声がかかる。
「アニキっ!」
やれやれ。思わずトシを恨むような目で見てしまったのは仕方がない。
「何、連れてきてんの」
「連れてきたんじゃねぇよ。ついてきたんだよ。おめぇのいとこだろうが」
呆れたような口調でトシが反論してくる。そこでキーファーがくるんと回った。
「そうっ! 俺、アニキのいとこっ!」
っていうか…キーファー、日本語でも同じテンションってどういうこと?
派手な格好をしてきたら教会に絶対に入れないと僕が言ったこともあり、本日のキーファーの服装は彼からしたら、かなり地味だ。
黒に近い濃い紫色のスーツに、ドレッドヘアは全部まとめてある。そしてアクセサリーは指輪と耳のピアスだけ。
余談だけれど僕らの場合、ピアスの穴はつけてないとあっという間に塞がってしまう。開けたらすぐに何かで穴が塞がるのを阻止しないといけない。
「今、着いたの? ア…フレッドは?」
アルフレッドと呼びそうになって、慌てて言い直す。キーファーは一瞬視線を左右に揺らした。
「なんでフレッドのことなんか聞くわけ?」
「いや。だって君、ここにいるし」
「いいじゃん。聞いてよっ! 俺に、元気? とかっ。久しぶりっ! とか、寂しくないかっ、とか」
「…。」
元気を聞くのはともかく、寂しくないか聞いたらダメな感じがするのは気のせいだろうか。レイラがぎゅっと僕の腕にしがみついてきた。キーファーがその腕を睨む。
「ダメよ。キーファー。彼は私のなんだから」
「いいじゃん。レイラ。俺だってアニキと仲良くしたいんだよ」
「そんなこと言って、指一本触れられないくせに」
レイラがわざとらしくぎゅっと抱きついて、キーファーに舌を出す。
「俺だって、触れる。触れるって」
そう言ってキーファーは指を一本、僕のほうへ突き出した。…けれど、その指は僕に触れる数センチ手前で止まる。
指先がぶるぶる震えて、キーファーの頬が染まり始めた。思わず僕はため息をつく。
「あのさ。僕で肝試ししないでくれる?」
「そ、そんなことは」
キーファーがおろおろとしたところで、ガタンと教会の扉が開いた。
「ああ。ちゃんと着いていましたね。キーファー。先にどんどん行ってしまうから」
アルフレッドがやや乱れた髪を撫で付けながら歩いてくる。こちらも綺麗な日本語を話していた。
そして僕の目の前に立つと、さっと片手を出す。その手を握れば、もう一方の手も添えてくる。
「お会いできて嬉しいです。マスター。先日はありがとうございました」
彼は寸分の隙なく挨拶してくる。先日というのは、数ヶ月前にレイラと二人でニューヨークに寄ったときのことだろう。
僕はちらりとキーファーに視線をやってから、フレッドに含みを持った笑みを漏らした。
「今日は…よろしく頼むよ」
「ええ。かしこまりました」
とたんにキーファーの機嫌が悪くなる。
「離せよ。フレッド。アニキの手を離せっ! それに何を目で語りあってんだよ。そういうのはダメっ!」
やれやれ。思わずため息をついてフレッドを見れば、彼はにやりと嗤って、キーファーになにやら耳打ちをする。
とたんにキーファーが赤くなって、そして大人しくなった。
思わずびっくりしてその光景を見ていれば、フレッドがこちらを見て、口をパクパクと開ける。
---- お任せを -----
なるほどね。どうやったかしらないが、キーファーのコントロールは完璧のようだ。
軽く足音をさせて彩乃がこちらに駆けてくる。いつもよりはシックなワンピースで、まだ普通の格好のままだ。
「お兄ちゃん」
「打ち合わせは終わったの?」
「うん。これから用意しなくちゃ」
彩乃はそういって、はにかみながら自分の服装を見下ろした。これから着替えや化粧、髪のセットなどをするから時間はあまり無い。後ろから総司もやってきた。こっちも普通の格好だ。




