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第5章  大和屋燃ゆ(5)



 翌朝、僕は土方さんに呼び出された。


 正確に言うと、朝稽古のときにいきなり土方さんが僕を呼んだ。


「宮月!」


 この人は、年上の人にはとっても丁寧で、よく礼儀を知っている。

 で、僕は年下に思われているわけで、たまに複雑な気分になるときがある。


 まあ、いいや。


「はい?」


「おめぇ、総司と一本、勝負しろ」


 なんで? どうして?


 しかも、この公衆の面前で??


「防具を…」


 と僕が言ったとたんに、総司が遮る。


「無しでいいですよね?」


 いやいや。無しじゃ困るから。


 素で総司の剣を受けろとか、勘弁してください。


 僕が防具に手を伸ばそうとしてところを総司に遮られて、真ん中につれていかれる。木刀も持たされた。


 どういうこと? なんかみんなの注目を浴びてるんだけど。


 土方さんの目配せで永倉が審判に立つ。


「始め!」


 そう声が聞こえたとたんに、総司の木刀が襲い掛かってきた。まずは正面からの打ち込み。何がなんだかわからないまま木刀を掲げて受ける。すぐさま離れて、胴を狙ってくる。これも受けた。


 この前と同じだ。でも受け続けるわけにもいかない。


 左右の斬り返しを受けながら総司の目を見ると、やっぱりマジ。ホント、こいつって剣に対しては真面目というか、まっすぐというか。



「打ちこんできてくださいよ」


 総司が微かな声で言った。接近しているからこそ聞こえる、微かな声。


「本気になってください」


 そう言って、平突きの構えを取った。



 来る!



 ドン! と音がして、木刀が突きだされる。


 その瞬間に僕は壁際まで吹っ飛んだ。



 

「勝負あり!」



 壁際で無様に尻餅をついて、木刀で突かれたところをさすっている僕を見ながら、総司が歩いてくる。


「なぜ…。どうして…」


 次の瞬間、総司は木刀を手放して、僕の上に馬乗りになってきた。


「何でですか! できるでしょ。本当は打ち込めたはずだ!」


 僕を殴り始めた総司を、慌てて周りが止める。永倉と平助に羽交い絞めにされながらも、総司の身体は前のめりになり、僕を睨みつけている。


「何で本気を出さないんですか!」


「総司、おめぇの買いかぶりだ。こいつがおめぇより強いなんてこたぁねえよ」


 静かに土方さんの声が響いた。その瞬間に総司が土方さんのほうを振り返る。


「そんなことないです! 本気を出してない! 今だって」


「今だって、おめぇの三段突きを喰らって、このザマだ。気を保っていられたのは褒めてやるがな」


 僕は総司を見上げた。総司は土方さんから視線を僕に戻して、僕を見下ろしていた。


「違う…」


「違わねぇよ」


「どうして!」


 もう一度、僕に凄い勢いで迫ってきた総司を今度は左之が止めた。


「残念だが、それが結論だ」


 総司が僕から視線を外し、道場の外へ出ていった。


「立てるか?」


 斉藤が来て僕に手を出す。僕はその手を掴みつつ、よろよろと立ち上がった。


「ちょっとキテるから、少し休む」


 そう弱弱しく言うと、斉藤は頷いた。


「凄い威力だからなぁ、ありゃ」


 左之も寄ってきて、訳知り顔にそう頷いた。


 その脇を通って、僕は裏の井戸へと向かった。道場を出るときに彩乃と目があったが、彩乃にはなんの表情も浮かんでいなかった。


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