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The Wedding Day (1)

 日本の秋は結婚式の季節だ。夏は暑すぎる。冬は寒すぎる。彩乃たちが結婚式をしようと決めたのも秋だった。


 大学を卒業して半年後。彩乃が通っていた大学の中にあるチャペルを借りての結婚式だ。


 できれば小学校から大学時代までの友人を招待したいという彩乃の願いをかなえるタイミングとして、ギリギリだろう。


 彩乃もすでに急激な成長期は終わって、ゆったりとした一族としての成長を始めている。つまり人間的な見方をすれば、年を取らなくなっている。


 加えて僕の問題もある。


 彩乃の兄として彩乃の友達たちと顔を合わせるのも、そろそろ限界だ。ずっと変わらないからね。人間の記憶なんていい加減なものだけれど、それでも際どい感じはする。


 結婚式は彩乃と総司の問題だから、僕は口を一切出さなかった。色々分からないところも多くて、けんかしたりしながら進めたようだけれど、最終的に教会で結婚式をするところに落ち着いたらしい。


 招待客選びも大変だったようだ。


 大学時代にできた二人の友人。それから総司の剣術道場の弟子たち。彩乃の剣道教室の友達。特に彩乃側だな。友達をどのように招待するか。本当に迷っていた。


 ま、僕に相談されてもこればかりは助けられない。


 その上、僕の眷族が出席したがって大変だった。けれどもそれは全部断った。そんなことをしたら、一体どんな結婚式になるのやら。


 だから一族で出席するのは、血族と和泉さん夫妻だけだ。護衛と称してジャックとデイヴィッドもくっついてきたし、同じ理由でフレッドもキーファーにくっついてきたけれど…。それぐらいはやむをえないところだろう。


 僕もレイラも一応、財界デビューをしてしまった都合上、多少は護衛がいたほうがいいというのはデイヴィッドの言い分だ。


 どうせ日本のメディアには取り上げられてないし、僕は要らないといったけれど。ああそうだ。僕の秘書という名目で李亮までついてきたんだ。そういえば。


 そしてキーファーに至っては、周りが黒尽くめの護衛を派遣しようとして、フレッドが一喝して止めたらしい。


 いざとなったら自分が盾になるから…とまで言い切ったと、キーファーがつまらなそうな口調の中に、嬉しさをにじませながら報告してきた。


 報告してきた時点で、嬉しいのはバレバレなのに。素直に喜べばいいじゃないか。まったく。


 親族は早めに集合させられる。特に親代わりだしね。でもやることがなくて、ぼーっと教会の後ろの席に座っていたら、隣にレイラが座った。


 ちなみにレイラは花嫁の付き添いも兼ねている。さっきまでぱたぱたと色々用意していたけれど、落ち着いたようだ。


 僕の視線の先には、まだ普段着のままの彩乃と総司が牧師さんから説明を受けていた。二人はこの後、控え室で着替えることになっている。


 ぼーっと式の手順について説明を受けている彩乃たちを見ていたら、レイラが話しかけてくる。


「あなたが牧師として立ちたかった?」


「いや。僕がやったら父親役がいなくなるじゃない」


「そうね」


 彼女が笑った。


 今日の僕の服装は黒のスリーピースに白いネクタイ。さすがに燕尾服は現代日本にはそぐわないかと思ってやめた。


 それでも少しでも年上に見えるように伊達メガネ。髪もオールバックにしている。レイラもいつもより落ち着いた化粧で、僕の年齢に合わせてきた。


「いつも思うけど、あなた、スーツが似合うわね」


「そりゃ、どうも」


「マントを羽織ったら吸血鬼って感じ」


 それって似合ってるっていうのか? ま、いいや。


「じゃあ、僕は夜な夜な美女を襲いに行かなくちゃ」


 そう言った瞬間にレイラはその美しい眉を顰めた。


「伝説の吸血鬼は毎晩、あちこちの美女を襲いに行くんだよ。そんなことしてほしいの?」


「なんでそう言うこと言うの? 別に私は…」


「変なこと言うからだよ。素直に素敵って言ったら、収まったのに」


「いじわる」


「ま。美女は傍にいるし。あ。毎晩襲ってないから欲求不満?」


「本当に、ああ言えば、こう言う」


「君がうかつなことを言うからいけないんだよ」


 僕はにっと嗤って、レイラの唇に軽く唇を合わせた。


「おい」


 後ろを振り返れば紋付袴姿のトシ。


「おめぇら、そんなところでいちゃついてるんじゃねぇよ」


 相変わらず口が悪い。その傍に黒のスーツを着た李亮。それから、その後ろは…見るんじゃなかった。


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