間章 首魁
-------- アルフレッド視点 ----------
茶色の長いドレッドヘアに、綺麗な顔立ち。白いシルクの布が何枚も重なった裾が長い服装…あれはどう見てもロングスカートだ。それにサイケデリックな色の奇抜な上着。
ジャラジャラとしたアクセサリーが妙に似合っている。声も中性的で、男か女か、一瞬分からない。どうみても男には見えない見た目に騙されたら…終わりなんだが。
「キーファー。どうします?」
地下室の壁際で腕を組んで立ったままこちらを見て、キーファーは興味がなさそうに肩をすくめた。
「別に。どうでもいいよ。適当に痛めつけて、適当に料理して」
私は傍に居た男に視線を送って頷いた。とたんに上がる悲鳴のような声。
「すまなかった! 許してくれっ! お願いだっ」
組織の金をくすねた男とはいえ、これでも温情措置なんだが、それは本人には通じてないようだ。
「はっ。つまんないの。どうせやるなら、もっと大金をくすねてよ。そうしたら俺が直接痛めつけて楽しめるのに。そのぐらいだと、フレッドが許さないからね。中途半端なことしないでよ」
低いテンションで喋るキーファーに苦笑した。キーファーに任せたら、生きたままバラバラに切り刻んで、死んだほうがマシだと思わせるような状態にして、相手の気が狂うまで…いや狂った後も、生かしつつ遊んでしまう。
その残虐さは一族一だろう。
「連れていって処分しろ」
私が命じれば、悲鳴をあげながら男は引きずられていった。まあ、どっかで殺されてバラバラにされて、私達の食事になる。そんなところだ。
最後にバラバラになるのは一緒だが、殺されてからバラバラになるのと、生きている間にバラバラになるのでは、苦痛が大きく違う。
私はキーファーに向き直った。
「ほら。そんなところで拗ねていないでください」
「…」
返事がない。思わずため息をついた。あの方がニューヨークに来るという情報は掴んでいるのに連絡がない。だからキーファーはご機嫌斜めだ。
私がまだ人間だったころから、キーファーの目はすべてあの方に向いていた。私がキーファーの傍にいるようになり、一族になり、公私共にパートナーになっても、その態度は変わらない。
だが口でなんと言おうと、キーファーはあの方に手を出せないだろう。傍にいることすらできない。それは長い年月の中で理解した。あの方がキーファーの中で別格すぎるから…。
「キーファー。拗ねてないで仕事をしてください。皆困っているんですよ?」
そう言ってもキーファーは拗ねたままだ。仕方ない。奥の手だ。
私は背中側から近づくと、肩を掴んで耳元に唇を寄せた。低い殺気を含ませた声で囁く。
「キーファー。そろそろご機嫌を治さないと…どうなるか…分かっているな?」
キーファーの背中がぶるぶると震えた。すっと頬が染まり、耳が赤くなっていく。そして、こくんと首が頷くように下がった。
やれやれ。
キーファーは人間には、これでもかというぐらいSだ。ところが一族に対しては、一転してMになる。とは言え、このことを知っているのは、私とあの方ぐらいだろう。
普段のキーファーを見ているものは、誰も脅しをかけて見ようなどと思わないに違いない。
くるりとこちらを向かせて、一見恐れから潤んでいるようなその瞳を覗きこむ。長年の付き合いの私には、喜んでいるのが丸分かりだ。こっちが殺気を出せば出すほど喜ぶ。
「仕事、しますね?」
普段の口調に戻せば、キーファーはちょっと拗ねたように上目遣いで私を見た後で、頷いて、おずおずと口を開いた。
「ちゃんとしたら…ね?」
甘えるような口調に笑いたくなる。
「はいはい。ちゃんと仕事をしたら、ご褒美を用意しますよ」
そして再び耳元で囁いてやる。
「いい子にできたら…な」
キーファーが気絶するんじゃないかと言うぐらい、身体をぶるぶると震わせて、そして私に抱きつこうとしたところを、すっとかわした。
「仕事が先です」
そう言ってやれば、拗ねたような顔をしつつも、軽い足取りで階段へと向かう。まったく単純で…可愛すぎる。
頭の中にふっと「carrot and stick(飴と鞭)」と浮かんで、にやりと笑いそうになった表情を引き締めた。




