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第5章  大和屋燃ゆ(4)


「彩乃、ほら、総司に団子、団子買っていこう」


 そういって、まだ怪訝な顔をしている彩乃を引っ張っていくと、なんと団子屋の店先に総司がいた。男一人で団子屋って…。現代だったら、男一人、喫茶店でパフェを食べてる図だな。おまえ…本気で、甘党だったか。


 思わず脱力しかけた僕をよそ目に、彩乃が嬉しそうに手を振る。


「総司さん!」


 その声に気づいて、こちらを総司が見た。


 その声につられるように、総司の隣にいた巨体のおっさんも顔をあげ…。うわ。島田さんだよ。島田魁。とにかく大きくて、力持ち。この人も最近入ってきた人だ。


 その巨体に見合わずに、ちょこんと団子屋の店先、総司の隣に座って、大きな手に小さく見える団子を持っている。


「えっと…。つっこみどころが多すぎて…。この図は一体」


 男二人で団子屋ですか。いや、いいですけど。


 インパクトの強さは、男二人がおしゃれな喫茶店で、綺麗にデコレーションされたイチゴパフェかなんかを食べているところを想像したら、だいたい合ってると思う。そのうちの片方は島田さんだから。巨体のごつい人だから。ほら、イメージがついたでしょ。


「ああ、お団子を買って帰ろうと思ったら、島田さんと会ったので、ここで食べていたんです」


「ここの団子はうまい」


 島田さんもボソリという。


「ア~ソウ。ヨカッタネ~」


 思わず棒読み。そんな僕を無視して彩乃が総司の隣に座って、さっそく団子を頼む。ついでに僕の分まで頼んだので、僕も彩乃の隣に座った。端から島田さん、総司、彩乃、僕の順だ。


 僕らの団子はすぐに来た。


「彩乃さん」


 と総司が口火を切る。


「はい?」


「私がいない間、さびしかったですか?」


 口調はとっても軽く。あくまで冗談ぽく。


 でも結構本気だな。


 彩乃は総司の言葉に、目を丸くして見開くと、顔をじっと見つめた。そして首をかしげて、ぱちぱちと数回瞬いた。


「あ、そうですね。それです」


「はい?」


 とたんに、ふんわりと彩乃が微笑む。


「総司さんがいない間、なんか変だな~って思っていたんです。今わかりました。さびしかったです」


「え?」


 思わず、総司と僕の声が重なる。


「まるで仲が良かった友達が引っ越しちゃったみたいだな~って思っていて。なんだろうって思っていたんです。『さびしかった』んですね」


 思わず総司と僕が脱力する。


「よかった~。なんだかわからなくて、もやもやしてたんです」


 そういいながら、彩乃はにこにこしながら団子を頬張った。


 いや、彩乃…。友達が引っ越したって…。そこに例えられる総司って…。


 島田さんも何かを感じたらしい。飲んでいたお茶を置くと、総司の肩を慰めるようにポンポンと叩く。僕がため息をつくと、総司は僕のことを恨めしそうな目で見てきた。


 いや、僕のせいじゃないよ。彩乃が天然なのは、僕のせいじゃないから。多分。



 しかし…そろそろ諦めてくれないかなぁ。総司。最初は面白かったんだけどね。ちょっと不安になってきた。


 この恋が本気になったら、行き先は悲劇しかない。時空も種族も超えちゃうんだよ。そして総司の寿命は彩乃よりも、ずっと短い。刹那だ。


 彩乃が総司の気持ちに気づかないことを、そして総司が早々に諦めてくれることを、僕としては祈るよ。



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