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間章  昔

------- トシ視点 --------


「トシ~。どう?」


 旅に出る準備っていうんで、荷物を広げているとデビがきやがった。まあ、出発も先だから、俺も荷物を広げたまま何をしていたわけじゃねぇ。


 持参したカップに、これまた持参した紅茶を俺の分まで淹れるデビを見ながら、ふっと思い出した。


「おめぇ、宮月の親って知ってっか?」


 デビが自分の分の紅茶に入れていた砂糖の手を止める。こいつ、何杯砂糖を入れる気だ?


「ああ。前のマスターね。それに奥さんのこと? もちろん知ってるわよ」


「どんな奴だった?」


「あら? 興味あるの?」


「ああ。宮月は親父のことを毛嫌いしてんだろ。何でかと思ってな」


 デビが笑う。


「まあ、前のマスターは割りと面白い思考の方だったわよね」


「どういうこった?」


「そうねぇ。マスターの家族団らんって面白かったわよ。傍目には」



 デビが語ったった家族団らんって言うやつは、こんな感じらしい。



「リーデル。今日は不動産屋へ行きたい気分じゃないかい?」


 父親に言われて、宮月は嫌な顔をする。


「なんでいきなり気分を聞かれるわけ? それを言うなら行ってきてくれるように頼むところじゃないの?」


「いや。お前が行きたいだろうと思って、行かせてやろうと思ってね」


「何のために僕が行くわけ?」


「事務所を増やそうと思って」


「事務所を増やすのは父さんでしょ」


「ああ。そうかもしれないがね…行きたいだろ?」


「行くわけないでしょ」


 宮月が嫌な顔で断れば、母親が出てくる。


「俊哉。お父さんを助けてあげて」


「母さん。父さんを甘やかすのは止めようよ。分かっててやってるんだから、性質が悪いんだから」


 宮月の母親っていうのは、おっとりと穏やかだったらしい。


「いいじゃない? 父さんは甘えたいのよ」


「いや。ちょっと待ってよ。なんで僕が父さんに甘えられないといけないの」


「大丈夫だ。俺は別にお前に甘えてない」


「父さん。じゃあ不動産屋は自分で行って」


「いや。お前が行きたいだろうから、行っておいで。俺はいいから」


「だ~か~ら~。なんで上から目線なの」





 デビの話を聞いて、俺はため息をついた。


「大変だな」


「そうね。でも面白かったわよ。マスターは逃げ回っていても、結局言うことを聞いちゃうのよね~」


 俺はあの碧眼の宮月の親父を思い出した。そう言えば食えない奴だったな。同時にぞっとするような殺気も思い出す。

 

 そういや、宮月の野郎も似たようなところがあるな。普段は見せねぇが、ふっとした瞬間にぞっとするような殺気をまとっていることがありやがる。


 思い出したところで、デビがにやりと嗤う。


「マスターに父親に似てるって言葉は禁句よ。本当に嫌がってるから。殺されるかも」


「おお。そいつぁ怖ぇな」


 俺は首をすくめてデビが入れた紅茶を飲み干した。


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