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第14章  それぞれの道(2)

 ちゃんと言葉にしなくちゃダメだ。覚悟を決めて息を吸い込む。


「レイラ。一緒に生きて欲しい。そばに居てほしい」


 レイラが息を飲んだ。


「僕は、君に傍に居てもらいたいんだ」


 レイラの緑色の綺麗な瞳から涙がこぼれ落ちた。


 だけれどレイラは僕から離れようと身じろぎし(僕が離すわけがないけれど)、無理だと悟ると諦めて僕の顔を見つめた。


「私がアリスかもしれないから?」


 僕は首を振った。


「その可能性は考えた。でも、もういいんだ。もう彼女のことは終わった。彼女は大事な僕の一部だ。それでも…今は、レイラ、君が大事だ」


 レイラがじっと僕を見る。


「本気?」


「本気。僕の心でも何でも読めばいい。僕が今、一緒にいたいのは、一緒に生きていきたいのはレイラ。君だ」


 レイラの眦の涙をそっとぬぐった。それでも彼女の涙は次から次へと溢れてくる。


「レイラ。一緒に居て。逃げないで」


 レイラの腕がそっと僕の背中に回される。彼女の身体の温かさが伝わってくる。


 と…思ったら、震えている。 


「レイラ? 怖いの?」


 レイラが首を振った。


「嬉しいの。でも…寒いの」


 思わず僕は吹き出す。そう言えば、レイラは寒がりだった。僕は両腕に力をこめて、自分の顎をレイラの頭の上に乗せて、身体全体で包むようにしてやる。


 確かに彼女の頭のてっぺんは冷えていたし、さっき涙をぬぐったときに顔も冷えていた。


「あ~。まだ今日のホテルを取ってないんだけど…どこか急いで行こうか」


 僕がそう言えば、レイラ僕の胸に押し付けていた顔をあげた。


「私のフラット(アパート)が近いわ。来る?」


「いいの?」


 レイラはにっこりと笑った。


「ぜひ来て」


「うん」


 もう一度、ぎゅっと彼女を抱きしめると足元に落としたボストンバックを拾い上げる。そしてレイラの冷えきった手を握り締めて、自分のポケットに突っ込んだ。


「暖かいわ」


「そう? 良かった」


 身体は寒かったけれど、気持ちは暖かいままレイラのフラットへと向かった。


 



 日本に電話して、レイラを捕まえたことを伝えれば、皆から歓声が沸いた。やれやれ。なんだか一大イベントになってしまったようだ。


 電話を切って台所でお茶を入れているレイラに声をかける。


「レイラ。君のプレゼントが届いたって。皆からありがとうって伝えて欲しいって言われたよ」


 レイラが二人分のカップを持ってリビングに入ってきた。


 僕がぽんぽんとソファーの自分の隣を叩けば、素直にそこに腰を下ろす。片方のカップを僕に渡して、自分も両手を温めるようにしてカップを持って、紅茶を啜り始めた。


「僕にもクリスマスプレゼントが送られてきたって言ってた。中身は分からないけど」


 レイラがちらりと上目遣いで僕を見る。僕はにっこりと笑って肩をすくめた。


「ま、日本に帰ってからのお楽しみにしておくよ」


「ええ。そうして」


 レイラがにっこりと笑った。そのレイラからカップをとりあげて、テーブルに置く。怪訝な顔をしている彼女の前で、僕は自分のカップを置いて、ズボンのポケットから小さい箱を取り出した。


 レイラがぱちぱちと目を瞬いた。じっと箱を見ている。


「クリスマスプレゼント…じゃないんだ。僕の気持ち」


 ぱちりと箱を開けて、中身を取り出した。 


「僕らの一生は長いよ。それでも、僕と一緒に居てくれる?」


 僕は彼女の左手をそっと持ち上げる。


「一度決めたら、僕はしつこいから。それでもいい? 離れたいって言っても離せないよ?」


 レイラの目に再び雫が溜まってくる。


「イエス? ノー? ほら。早くして」


「イエスっ! イエスに決まってるわ」


 僕はすばやくレイラの左の薬指に指輪を通して、抱きしめてキスをした。


「じゃ、決まり。一生傍にいること」


「ええ」


 レイラがキラキラと輝く指輪を天井にかざす。定番だけれどダイヤのついた指輪だ。気持ちとしては婚約指輪だね。その指輪をじっとみていた瞳が動いて僕に視線が移る。


「ずっとあなたの本当の言葉が欲しかったの」


「うん」


「うわべだけの甘い言葉じゃなくて、本当の本当の気持ちが」


「うん」


 僕はもう一度自分の唇をレイラの唇に重ねる。


「愛している。君だけ」


 レイラがにっこり笑った。


「彼女は?」


「愛していた。やっぱり彼女は大事だよ。それは許して。でも今は君だけ」


 その言葉にレイラの目から涙がこぼれる。


「ありがとう。それで救われる」


「レイラ?」


 レイラが俯いてから、決心したように顔をあげて、再び僕を見る。


「あなたに彼女の記憶があるように、私にも…彼女の…アリスの記憶があるの」


え?


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