第12章 それぞれの秘密・後編(1)
クリスマスが目前に迫ったある日。自分の部屋の障子を開け放って、僕は畳の上でごろごろとしていた。
ちょうど廊下の向こうが大きな窓で、窓を開けると廊下が縁側になるようになっている。冬だからさすがに窓は開けないけれど、暖かな日がのどかだ。
本当は僕らが居なければスズメとか来ると思うんだけど、あいにくこれだけ一族がそろっていると、動物や鳥は警戒して来ないから残念だね。
「ねぇ」
ふいに顔に影が落ちる。視線をやれば、レイラがちょこんと座っていた。
「暇?」
「あ~。まあ、見ての通りだけど」
まあ、暇だね。うん。本当ならばこの時期はクリスマスの用意で、わりと忙しい時期なんだけど、教会が燃えたからね。僕は失業中だ。
「買い物に付き合ってくれる?」
「ああ。まあ、いいけど」
そしてレイラに促されるままにクリスマス一色の街へと繰り出した。
レイラの買い物は、僕らへのクリスマスプレゼントだった。次から次へと買っては配送の手配をしていく。
「家にあったらばれちゃうでしょ」
そう言って、彼女はいたずらっ子のように微笑んだ。
「クリスマスイブに運び込んでもらって、ツリーの下に置くのよ」
嬉しそうに話しながら、彼女は組み立て式で電飾もついた大きなツリーを買い込む。楽しそうに彼女がプレゼントを選ぶ間、僕は誰にはどれがいいかと相談されて、適当に答えつつ一緒に選んでいた。
彼女の買い物はメアリに海さん、小夜さん、それに彼らの小さなお嬢さんの分や、キーファーやフレッドの分まで及ぶ。もちろん彼女の仕事を支えてくれている眷族の分も忘れない。
可愛らしいティーカップのセットや、暖かいひざ掛け、ちょっとおしゃれなペンなどたわいの無いものばかりだったけれど、彼女の気持ちがこもっているのがわかる品々だ。
夕方になって、彼女はくるりと僕のほうを向いた。
「ここの近くの教会がクリスマス礼拝をやるの。行かない?」
教会は十二月に入れば、何回かクリスマスのための礼拝を行う。多分、そのうちの一つなんだろう。
「まあ、いいけど…教会だよ?」
「ええ。教会よ。いいでしょ? 牧師さん?」
僕は肩をすくめた。別に彼女が行きたいなら、付き合うのはやぶさかではない。
「いいよ。行こう」
レイラに導かれるように、夕暮れの教会に向かった。
礼拝が始まる少し前だったからか、意外に教会の中は人が多かった。蝋燭の炎に照らされた会堂内が神秘的に見える。つれてこられた教会はカソリックの教会で、石像があってステンドグラスも綺麗だ。
プロテスタントの教会は、ほとんど装飾がない。それに比べてカソリックの教会はステンドグラスにマリア像、キリスト像。教会によっては聖人の像などがある場合もあって、とても綺麗だ。ヨーロッパで観光地となっているのは、カソリック系の教会が多い。
ちなみに燃えてしまった僕らの教会はちょっとだけステンドグラスが入っていたけれど、石像などもなく地味だった。建てた当初は木の匂いがしただろうな~というもので、あれはあれで味があって良かったんだけどな。燃えたものは仕方がない。
粛々と式が進んでいく。その中でレイラは熱心に礼拝に参加していた。こんな風に参加しているなんて知らなかったな。僕自身が礼拝をやっているときはレイラに注目している余裕は無かったからね。
礼拝が終わって外に出れば結構冷え込んでいて、レイラは自分の手に息を吐きかけて暖を取っていた。その姿がいじらしくて、思わず彼女の手を掴んで、そのまま自分のポケットに突っ込む。僕の手も一緒に。レイラが目を見開いた。
「いいの?」
「寒いから特別」
レイラは嬉しそうに微笑むと、ポケットの中で僕の手をぎゅっと握った。
よっぽど僕のポケットに手を入れているのが嬉しいのかな。歩きながらも、まるで小さな子のように無邪気に笑っている。心なしか足取りもステップを踏んでいるようだ。
そんなレイラは可愛らしく感じる。もともと綺麗な娘なんだけどね。こんなときは綺麗というよりは可愛いという言葉が似合う。




