第5章 大和屋燃ゆ(2)
「ごめんなさい」
事情を話して謝った僕に、善右衛門さんは布に包んだものを渡してくれる。小判だよ。
「はい。どうぞ」
「いや、こんなにいらないです」
そういうと善右衛門さんは小首をかしげた。最近、彩乃の癖がうつったらしい。おじさんにやられても可愛くないんだけど(汗)
「でも持っていかないと俊哉さんと彩乃さんが困るでしょ」
「ん~」
彩乃も首をかしげる。やめてくれよ。僕の右と左で首をかしげあっているのは。
仕方なく僕もかしげてみた。あ、馬鹿っぽい。やめよう。
「別にいいですよ。多少足りないぐらいのほうがいいかな。この後、ヘタに頼られても困るし」
そういって、いくらか返そうとすると、善右衛門さんがそのまま僕の手に押し付けてくる。
「じゃあ、必要な分だけ組に渡したらいいでしょう。残りは納めてください」
く、組って…、どっかの舎弟じゃないんだから。まるで上納金みたいじゃないか。いや、似たよなものか。土方さん、ハンサムだけど、ガラが悪いもんな~。
思考が暴走しそうになるのを、思わずとめる。
そうじゃなくて。
「こんなにお借りしても返すあて、ないですよ?」
僕がそう言うと、善右衛門さんは意味深に笑って、僕の耳元に口を寄せる。
「日ごろの『食事』のお礼です」
…。あ、あれか。
しばらく包みを見ながら迷っていたけれど、彩乃に新しい着物も買ってあげたいし、まだ給金は安いしなぁとか思って、結局受け取ることにした。
「必要があったら、また言ってください。お二人のためならいくらでも融通しますので」
その台詞、なんか怖いんだけど…。善右衛門さんを見ると穏やかに微笑んでいる。変な裏がありそうには見えなかった。
うーん。
そう思って見ていると、奥から彩乃と同じぐらいの年齢の女性がでてきた。善右衛門さんの隣にならんで、ぴょこりとお辞儀をする。
「娘の小夜です」
娘?
思わずマジマジと見てしまう。なぜなら善右衛門さんは、日本では多分最後の一人だと言っていたから。
自然の摂理として違う種族同士の子供というのはできにくい。まあ、実験的に人間がレオポンやライガーといったヒョウとライオンの子供や、ライオンとトラの子供を作ったりするけどね。一応、自然交尾で子供ができないこともないというぐらいで、積極的には生まれない。
僕らの一族も人間との間に子供ができないわけではないけれど、同種族同士と比べてかなり確率は低くなる。できた場合でも弱い個体になるしく、他種族との間の子供は忌避されているのが実情らしい。
一族が減り過ぎちゃってるからね~。僕にとっては、親から伝え聞いた話ばっかりだよ。
そうそう。血を吸われたら吸血鬼になるっていうのは、どっかのヒステリックな人が考えた迷信だ。そんなことしたら、僕らの食事がどんどん無くなってしまうじゃない。恐ろしい勢いで増えて飢える同族は考えたくない。
でも実はある方法で人間を同族に引き入れることはできる。それは秘中の秘であると同時に、まあ、色々制約が発生する。その話はそのうちにチャンスがあったらね。
というわけで、娘さんの話に戻ろう。




