表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/639

第5章  大和屋燃ゆ(2)


「ごめんなさい」


 事情を話して謝った僕に、善右衛門さんは布に包んだものを渡してくれる。小判だよ。


「はい。どうぞ」


「いや、こんなにいらないです」


 そういうと善右衛門さんは小首をかしげた。最近、彩乃の癖がうつったらしい。おじさんにやられても可愛くないんだけど(汗)


「でも持っていかないと俊哉さんと彩乃さんが困るでしょ」


「ん~」


 彩乃も首をかしげる。やめてくれよ。僕の右と左で首をかしげあっているのは。


 仕方なく僕もかしげてみた。あ、馬鹿っぽい。やめよう。


「別にいいですよ。多少足りないぐらいのほうがいいかな。この後、ヘタに頼られても困るし」


 そういって、いくらか返そうとすると、善右衛門さんがそのまま僕の手に押し付けてくる。


「じゃあ、必要な分だけ組に渡したらいいでしょう。残りは納めてください」


 く、組って…、どっかの舎弟じゃないんだから。まるで上納金みたいじゃないか。いや、似たよなものか。土方さん、ハンサムだけど、ガラが悪いもんな~。


 思考が暴走しそうになるのを、思わずとめる。


 そうじゃなくて。


「こんなにお借りしても返すあて、ないですよ?」


 僕がそう言うと、善右衛門さんは意味深に笑って、僕の耳元に口を寄せる。


「日ごろの『食事』のお礼です」


 …。あ、あれか。


 しばらく包みを見ながら迷っていたけれど、彩乃に新しい着物も買ってあげたいし、まだ給金は安いしなぁとか思って、結局受け取ることにした。


「必要があったら、また言ってください。お二人のためならいくらでも融通しますので」


 その台詞、なんか怖いんだけど…。善右衛門さんを見ると穏やかに微笑んでいる。変な裏がありそうには見えなかった。


うーん。


 そう思って見ていると、奥から彩乃と同じぐらいの年齢の女性がでてきた。善右衛門さんの隣にならんで、ぴょこりとお辞儀をする。


「娘の小夜です」


 娘? 


 思わずマジマジと見てしまう。なぜなら善右衛門さんは、日本では多分最後の一人だと言っていたから。


 自然の摂理として違う種族同士の子供というのはできにくい。まあ、実験的に人間がレオポンやライガーといったヒョウとライオンの子供や、ライオンとトラの子供を作ったりするけどね。一応、自然交尾で子供ができないこともないというぐらいで、積極的には生まれない。


 僕らの一族も人間との間に子供ができないわけではないけれど、同種族同士と比べてかなり確率は低くなる。できた場合でも弱い個体になるしく、他種族との間の子供は忌避されているのが実情らしい。


 一族が減り過ぎちゃってるからね~。僕にとっては、親から伝え聞いた話ばっかりだよ。


 そうそう。血を吸われたら吸血鬼になるっていうのは、どっかのヒステリックな人が考えた迷信だ。そんなことしたら、僕らの食事がどんどん無くなってしまうじゃない。恐ろしい勢いで増えて飢える同族は考えたくない。


 でも実はある方法で人間を同族に引き入れることはできる。それは秘中の秘であると同時に、まあ、色々制約が発生する。その話はそのうちにチャンスがあったらね。


 というわけで、娘さんの話に戻ろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ