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第11章  安目(3)

 一瞬の状況把握の後、男が殺されていることを確認すると、一斉に銃が乱射される。自動小銃の音だ。銃声というよりは、何かをえぐっているようなガガガッという大音響の中、僕は銃を持っていないほうの手で総司の手首を掴んで、壁に向かって走り出した。


「俊、何を」


 するんですか? という言葉はいえないままに、速度を上げて壁を駆け上る。ほとんど垂直状態だ。


「う、うわっ」


 総司も一族だからね。驚きつつも、なんとか僕のスピードに合わせて壁を走っている。


「窓から飛び出せっ」


 さらに腕で反動をつけて、総司を上部にある窓へと放り投げるようにして押し上げた。彼はそのままの勢いで窓を突き破って、飛び出していく。着地は…なんとかなるだろう。一族だし。総司の身体能力は悪くないし。多分大丈夫。


 僕のほうは、総司を放り投げた反動を利用して直角に走り、自動小銃を乱射している奴らの後ろへと背面ジャンプのようにして飛び込む。もちろん空中で半回転して足から着地した。勘は鈍っていなかったらしい。うまい具合に撃っている男たちの後ろへと着地する。


 着地と同時に自動小銃を持った男の首を打ち抜く。それから倒れる男の銃を取り上げて、周りに向かって撃っていく。面白いように男たちが倒れていく。AK47カラシニコフだな。専門的な訓練を受けなくても、比較的容易に使える銃だ。これ、数発ずつ撃つのがコツなんだよね。撃ちっぱなしにするよりも的に当たり易くなる。


 片手のもともと持っていた銃はヒップホルスターに戻す。ワルサーP5だからね。小さくていいんだけど、弾倉(マガジン)の8発と薬室(チャンバー)にある1発で合計9発しか撃てない。敵が多いときには不向きだ。確実性を狙ったのが裏目に出た。


 AK47の弾を撃ち切ったところで、後ろに向かってトンボを切る。今は言わないのか? 「トンボを切る」って。所謂、バック転だ。手を地面に着いた瞬間に、空いた方で地面に落ちている銃を拾う。それからまた撃ちまくる。


 自分以外に立っているものがいなくなり、呼吸音も心音も残っていないことを確認する。オールクリアだ。やっちゃった感が半端ないが、仕方がない。目撃者を残すわけにはいかない。倉庫の外へ出れば、向こう側に総司が見えた。あっちもかなり暴れたようだ。足元に男たちが転がっている。見れば首があちこちに曲がっている。銃で撃つよりも体術でどうにかしちゃった感じだな。こんなことなら、刀を持たせておけばよかった。


 倒れている男たちの生死を確認しながら総司に近づいていけば、こちらに気づいた彼が最後の一人の首をあらぬ方向に曲げて、ぽいっと落としながら走ってきた。あちらこちらが血だらけだ。


「無事ですか」

「大丈夫?」


 お互いの言葉が重なって、思わず吹き出した。これっぽちのことでやられるわけがない。お互いに。相手は人数がいても素人だ。


「少し…撃たれた?」


 ちらりと血が出ている腕や脚を見れば、総司は照れくさそうにへにゃりと笑った。


「ちょっとばかり避けそこないました」


 ぐるりと見回す。もう動くものはいない。


「行くか」


 山奥へ向かって歩き出した僕に、総司は何も問わずに隣を歩きだした。


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