表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
507/639

第11章  安目(2)

 車はかなり長い間走って、人気のない山の中へと向かう。


「ここは…」


 男が目を見開いた。知った場所だから驚いたんだろう。この先にあるのは廃工場。彼の組が跡を消したいような仕事をするときに使う場所だ。せっかくだから借りることにしたわけだ。


 目的地の手前、廃工場から見えない位置で、車を止めた。男と総司を残して僕だけ降りる。ここを借りるからには先に掃除をしないとね。


 気配と音を殺して廃工場へと向かう。車の解体工場だったらしいが、今はゴミ捨て場に近いらしい。ブロック塀を跳躍して越えて、向こう側へと降りた。


 目の前にはスクラップになった車と、壊れた車が山済みになっている。その奥には壊れかけた大きな倉庫。手間には門があり、その脇に守衛のための小屋が立っている。人がいるとしたら、倉庫か小屋だな。


 守衛小屋を覗き込めば、柄の悪い男が一人。マンガ雑誌を読んでいる。僕は帽子を目深にかぶってから、勢いよくドアを開けた。男が顔を上げる前に昏倒させる。


 しまったな。ロープか何か持ってくれば良かった。仕方なく男の洋服を半脱がせにして、手足を動けないように両手、両足の先を縛り込む。それから臭い靴下を脱がせて口に突っ込んだ。自分の靴下だから許して欲しい。


 それから倉庫のほうへ向かう。ヒップホルスターから銃を取り出し、構えてから、倉庫の扉を開ける。勢い込んで入ったけれど、中には誰もいなかった。せっかく覚悟して入ったのに。まあ、ある意味良かった。しかし凄いな。血の匂いが充満している。人間には分からないかもしれないけれど、僕にはかなり強烈に感じた。


 匂いを振り切るにようにして急いで車に戻り、今度は車を運転して開け放してきた門から入る。それから男を倉庫まで引っ立てた。男に前を歩かせて、背後から銃を突きつける。


「さて。ここなら後始末はあなたの組がやってくれるかな」


 そんな風に脅してみても、この男は屈しなかった。


「こんなことして、ただじゃすまねぇぞ」


 おーお。巻き舌。全然怖くないけどね。


「そうだね。もしも更に手を出してきたら…事務所2つと幹部一人の命ぐらいじゃすまないかもね」


 とたんに男の背中が強張った。


「さて。お喋りはこのぐらいにして…」


 ここからは交渉の時間だ。この男がいなくなれば、組織が潰れる可能性もある。自分が所属する組織がなくなるというのは、一番嫌がられることだろう。男を殺すのは最後だ。できれば他の組織へ行ってくれるか、または足を洗ってくれるのが望ましい。まあ、トシには甘いって言われたけどね。一応、できることはやってみよう。


 そう思って口を開こうとしたところで、僕と総司は振り返った。外から聞こえてきたのは車の音、バイクの音。しかもかなりの数だ。どうして…。


 一瞬だけ考え込んでから気づいた。


「発信機だ…」


 僕の言葉に目の前の男がニヤリと笑った気配がした。完全に僕の落ち度だ。現代にはそういうものがあったのを、すっかり忘れていたよ。


「囲まれましたね」


 総司がぽつりと呟いた。その通り。囲まれたよ。完全に。結構な人数だ。


「ははは。ざまぁ」


 笑い出した男の言葉を途中でさえぎって頭を撃ちぬく。倉庫の中に銃声が反響した。総司が息を飲んだと同時に、扉が開いて人がなだれ込んできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ