第10章 出入り?(4)
僕らのほうは交通渋滞もなくスムーズに予定通りに到着した。前から目をつけていた空き地に車を止める。事務所まですぐそばだ。人通りがないことを確認して、僕は後ろを振り返った。
黒ずくめの胴着姿のトシと総司。ジーンズ姿に刀を抱きしめた彩乃。ちなみにレイラは助手席にいて、幾分おとなしめだけど普段の格好だ。乗り込むわけじゃないしね。僕は黒のシャツに黒のパンツ。色が濃いほうが血は目立たない。そういうこと。
ヒップ・ホルスターの拳銃を抜いて一度確認する。反対側の尻ポケットに突っ込んであるのはサプレッサー(滅音器)。マズル(銃口)の先につけて出る音を小さくする。デイヴィッドによると2割~3割程度、音が小さくなるらしい。そして閃光が出ないし、撃つときの反動も少なくなるそうだ。まあ、試してみるとしよう。
「行くぜ」
気合の入ったトシが車から降りた。僕と総司も彩乃とレイラに目で合図してからトシに続く。そして小さなビルの前に並び立った。相手側のカメラ類はすべてレイラが止めている。映像が残る心配はない。
すぐ近くにはキーファーが派遣した掃除屋がいるはずだ。終わり次第、入ってくる手筈になっている。僕らは黙って頷いて、ドアをゆっくりと開けた。ちなみに僕らの手には手術用の薄いビニール手袋。ちょっとばかり感覚が鈍るけれど、指紋を残すと面倒だからね。
そっと歩いていくと見張りが一人。成人したかしていないかぐらいの若い男が椅子に座って雑誌を読んでいる。僕はトシと視線を交わした。若いなぁ。気が進まないけれど…仕方ない。殺しに行こう。
ナイフを構えて、足音もさせずにそいつの傍に行って、殺そうとして…僕は昏倒させた。
「おい。何やってやがる」
肩をすくめて返事をする。
「本当に下っ端の見張りだ。それに僕らを見てない」
ちっとトシは舌打ちすると、そのままドアに手をかけた。総司に目配せすると、総司はすらりと刀を抜く。次の瞬間に、トシがドアを大きく開いて、総司が踊り込んだ。続いてトシも部屋に踏み込む。
「な、なんだっ! てめぇら!」
ガタガタと椅子が動く音がして、中にいた男が怒鳴り声を出す。それに対してトシが怒鳴っているわけではないのに、よく響く声で答えた。
「世話になったんで、ちっとばかり礼に来たぜ」
ぎらりとトシが構えた刀が光を放つ。その横で、総司も下段の構えを取った。狭い場所だから下から斬り付けるか、または突きを放つつもりだろう。
「あのバーの。バー・ライトブルーにやってきた奴、全員ぶっ殺す」
低い声が響いて、一瞬、部屋に中にいる連中がたじろぐ雰囲気を見せた。ついでに僕が口を挟む。
「うちの燃えちゃった教会の分もよろしく~」
とたんに部屋の空気が緩んだ。
「宮月…てめぇ…雰囲気を察しろ」
いやいや。ほら。やっぱり一応、言っておかないと。こっちの事務所のやつが火をつけたらしいし。
「日本刀で脅したって、こっちは怖くもねぇ」
相手がどっかから拳銃を出してくるけど…うーん。撃ちなれてないことが見え見え。構え方がいまいちだね。
「こっちこそ、そんなもん。怖くねぇよ」
そう言ってトシが踏み込んだと見るやいなや、拳銃を出してきた奴の首を一刀のうちに刎ね飛ばす。うわー。もったいない。見事に首からシャワーのように血がでて、あたりが血だらけだよ。
僕らは三人とも血を浴びて…そして見事に瞳の色が紅くなった。なんせ遠慮する必要がないんだ。隠す必要もない。血を浴びながら舌なめずりをする。やっぱり生の血はおいしいよね。
「な…てめぇら…」
相手が僕らの変わりように絶句したところで、トシと総司が片っ端から斬りつけ始めた。やっぱり総司の太刀筋は綺麗だ。惚れ惚れする。
左の敵を肩から袈裟斬りにしたところで、今度はそのまま右の敵の胴をなで斬りにする。一瞬の刀捌きだ。すぐに振り返ると、後ろの敵に突きを放つ。ほとんど溜めの動作がない。あれよあれよという間に3人が斬られた。
机の端に腰掛けて見ていれば、トシが僕を睨みつけてくる。
「おめぇもやれ」
いや。だって。僕がいなくても十分って感じだもん。
そう言ってる間に後ろから飛び掛ってきた相手を、トシは気配だけで察知し素早く刀を逆手に持ち替えて、脇から後ろを突き刺す。トシの身体は僕の方に向けたままだから、飛び掛ってきた奴は何が起きたか分からなかっただろう。
男がのけぞったところで再び刀を持ち替えて、今度は振り返って袈裟に斬り下ろしてトドメをさす。お見事! ぱちぱちと手を叩けば、嫌な顔をされた。
「おめぇな」
はいはい。そのときに僕の耳が金属の擦れる音を捉えた。やれやれ。
「トシ。隣の部屋の奴が逃げるよ。窓を開けようとしている」
僕が言えば、トシが慌てたように振り返って、隣の部屋のドアへ突進する。この事務所のトップかと思える人物が、窓から外に出ようとしていた。




