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間章  乱闘(2)


 斉藤一を休ませる傍ら、我々は酒を飲もうということになり店に入った。二階の座敷に通されて飲み始めれば、しばらくして薬が効いたのか、腹痛が治まって斉藤一も酒に手を出し始める。腹痛か酒か。それは酒だろう。腹が痛くなったら、また休めばいいのだ。


 そうやって皆で酒を飲みながら騒いで、どのぐらい経ったころだろうか。店のものが血相を変えて我々が飲んでいた座敷へと駆け寄ってきた。


「た、大変でございます。外に、外に、大勢の…」


 皆まで聞かずに外に面した明り取りの障子を開けて下を見れば、角材をもった力士が集まっていた。その数、およそ30人。皆、ふてぶてしい顔をしている。


「先ほどの力士か」


 近藤先生が呟くのを聞く間でもなく、芹沢先生はにやりと笑うと「面白い!」と一目さんに外に向かって走り出してしまわれた。これは遅れてはいけない。芹沢先生の勇姿を見逃すわけにはいかないのだ。私もすぐにその背を追った。


 先生はそのまま力士の真ん中に飛び出して、角材を振りかざす者の懐に入り込んで鉄扇で角材を払うと、その力を利用して相手の肩口に打ち付けた。振り向き様に後ろから襲ってきたものの額を打ち付ける。


 すばらしい。すばらしい鉄扇捌きである。さらに襲ってくる力士を半身で裁き、行き過ぎたところで手首に鉄扇が落ちる。相手は角材をポロリと落とした。惚れ惚れする。思わず女子のように歓声を上げたくなったが、ぐっとこらえる。


 傍をうろちょろする沖田総司や斉藤一が、視界の邪魔だ。もう少し端によってくれないだろうかと思いつつ、先生が見える位置に移動する。先生の技の一つも見逃すのはもったいない。だがこうやって見ていると、私にも襲いかかる者がいた。仕方なく刀を構えて、相手と距離をとる。


 実は私は隻眼(せきがん)だ。だがそんなことは芹沢先生の姿を見るのには関係ないのである。半眼にし、視線を読み取られないように力士に向かう。実は相対する力士との延長戦上に見える芹沢先生。鉄扇はしまい込み、今度は刀を抜いていらしゃった。むむ。残念だ。鉄扇で相対する先生は一番格好いいのだが…。いやいや。もちろん刀でも格好いい。


 そうやって見ているうちに、私の相手は痺れを切らしたように角材を振り上げて襲いかかってきた。


 あ、格好いい芹沢先生が見えなくなる。


 こいつめ。襲ってくるなら芹沢先生が見えるように襲ってこい。


 だが、そんなことは口に出せないので、とっとと倒すことにする。角材が振り下ろされる瞬間に身体を捌き、角材を避ける。歩を進めて相手の後ろに入ったところで、くるりと剣を回して峰打ちにした。


 一撃にして沈めて振り返れば、すでに勝敗は決していた。


 ううう。芹沢先生の刀裁きを見逃してしまった…。この一瞬だけが大阪での心残りであった。


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