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間章  火事(1)

---------- 土方視点 ---------


 ああ。もうイライラしやがる。


 例の異人のねぇちゃんが目の前をうろうろするたびに俺のイライラは募る。


 またしても白い背中は見えるし、足は太ももまで出してやがる。あんなのを見せられて、目をやるななんていうのは、男には無理だ。


 暑くもなく、寒くもなく。ちょうどいい気候だってぇいうのに、なんであいつはあんな格好してやがる。


「いやらしい目で見ないでよ」


 居間でぼーっと茶を飲んで、書付…ぶっちゃけるなら、歌を詠んでいた俺に、いきなり文句を言いやがる。


「別に見たくて見ていたわけじゃねぇよ。おめぇが俺の視界に入るんだろうが」


「その目つきがいやらしい」


「なんだと? 俺の目つきはいつでも同じなんだよ。てめぇこそ被害妄想だろうが」


 とたんに奴がアカンベーをしやがった。子供か。こいつは。


「ああん? 喧嘩売ってんのか?」


「別に。やりたくなったから、やっただけ」


 その態度に俺はちっとばかり頭にくる。


「てめぇも女なら女らしく、もっと肌を隠して大人しくしやがれ。男にアカンベーなんざ。ガキのやることだ」


「信じられない! 何、その時代錯誤」


「うるせぇな。時代錯誤でもなんでも結構だよ」


「今は男女平等の時代なんですからねっ! 男、男って、振りかざさないでよっ!」


「なにぃ?」


 俺らの声が大きくなって遣り合っている最中に、お互いにふっと黙り込んだ。


 何かが…臭う?


 ねぇちゃんが顔を顰めてから、はっと気づいたように声を出した。


「何かが…燃えてる…。火事? 火事よっ! ああ。どうしよう…どうしたらいいの?」


 一瞬パタパタと教会堂のほうへ行きかけて、そして二階を見た。


「彼は?」


「ああ? 宮月か? 二階だ」


「どうして気づいてないの!」


 確かにな。俺は二階へ向かう階段を登った。ねぇちゃんも後ろからついてくる。


 こういう場合は逃げるのが優先か? 江戸の火事はとにかく家財道具を一切合財もって大八車で逃げるんだが。


「おいっ。宮月!」


 ドアを開ければ、机で転寝をする奴を見つけた。


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