第7章 教会(5)
翌日の日曜日。午前中の礼拝を終えた後、今日はスペシャルイベントがある。結婚式だよ。
日本の秋は気候もいいし、春に比べて入学式などのイベントが少ないせいもあって、実は結婚式が多い。特に十月は狙っている人が多くて、僕の教会でも毎年十月になると誰かしらの結婚式をやっていた。
教会員の場合もあれば、ふらりと来て式を挙げたいと予約する場合もある。ちなみに教会員以外の場合は、半年ぐらい教会に通ってもらうのが約束になっている。まあ、教会での結婚式は信者が挙げるものと決まっているからね。一見さんであっても、一応は勉強してもらうわけだ。
今日の二人は、春に申し込みに来て、半年間通っていたカップルだ。
午前中の礼拝の後で、業者が来て一気に会場を作っていく。真ん中をバージンロードにして、その周りの椅子には白いリボンと花を飾る。それから式台にも花。僕も結婚式用の式服を着て、自分で言うのもなんだけど見事な牧師ぶりだ。
彩乃と総司が興味深そうに会場を見て回ってから僕のところへとやって来た。
「お兄ちゃん。見てちゃダメかな?」
頭の中で列席者の人数を計算する。たしか少なめだったはずだから、一番後ろのほうだったら席が余るかもしれないな。
「あ~。新郎新婦に聞いてみるよ。出席するなら、多少綺麗な格好して」
僕の言葉に二人が嬉しそうな顔をした。
新郎は日曜学校の教室を控え室にして、そこに居てもらっている。新婦のほうはドレスだから、裏側の一階の奥に衝立を置いた場所が控え室になっていた。僕が親族を経由して聞いてみれば、別に構わないという返事だったので、彩乃たちは一番後ろにこっそりと座っておくこととなった。
列席者がそろって、そして式についての簡単なレクチャーをする。出席者はキリスト教式の結婚式が初めての場合もあるからね。座ったり立ったり、歌を歌ったり。そういうのを先に教えておくわけだ。簡単な式の流れと一緒に。
時間になって、いよいよオルガンの音が流れ出す。
結婚行進曲と共に花嫁が花嫁の父と一緒にバージンロードを歩く。これが実は結構めんどくさい。右足を出して、足をそろえて、左足を出して、足をそろえる。ちょっと特殊な歩き方だ。ゆっくりと歩くようにね。
僕のすぐ傍で花嫁を待つ花婿の緊張も伝わってくる。途中まで父親が連れていき、そして途中で花嫁は花婿にバトンタッチされる。それから二人で僕の目前まで数歩の距離を歩いてくる。定位置に並んだところで式が始まった。
歌が入って、二人が選んだ箇所の聖書を読み(というか、こちらがお勧めするところから大抵の人は選ぶんだけどさ)、そして愛について話をする。
結婚するっていうのは、楽しいことばかりじゃない。健やかなるときも、病めるときも、という言葉に表れるように、人生にはいいときもあれば、悪いときもある。その両方のときにお互いを支えあって一緒に居られるように…そんなことを考えながら、僕の実年齢よりはずっと若い二人のために話をした。まあ、見た目的には僕と同じぐらいだけどさ。気持ちは込めた。
二人の結婚の意志を確認し、それぞれが誓いの言葉を口にする。その証として指輪を交換して、口付けをする。ここでフラッシュの嵐。まあ、仕方ないよね~。厳かな式が、いきなり見世物みたいになっちゃうけど。現代社会ではカメラって重要だもんな。
賛美歌を歌ってお祈りして、最後にこの結婚について意義を申し立てるものがいないかどうか確認をしてから、結婚の宣言をする。「神が結びつけたものを、人が離してはならない」と。
花嫁、花婿の退出は、もうおめでとうの言葉と拍手とフラッシュの嵐だ。
そして教会の前の階段を利用して記念撮影をする。これも業者が入っているから、いつもの通り終わる。
披露宴はバスで移動して、レストランの貸し切りでやるそうだ。僕も招待されたけれど断った。教会の人同士の場合は出席することもあるけれど、基本的に披露宴はお断りさせていただいている。
知らない人だらけのところにいっても面倒なだけだしね。
ふぅ。
撮影が終わって、バスをお見送りして、ライスシャワーの後始末をして…。ようやく僕が教会の中に戻れば、彩乃と総司が二人で正面に立っていた。さっきまで新郎新婦が立っていた位置だ。彩乃が一生懸命思い出しながら口を開く。
「えっと…病めるときも健やかなるときも…なんとかかんとかで」
出たよ。彩乃のお得意。なんとかかんとか(笑)
思わず笑いそうになって、僕は彩乃の言葉を引き継いだ。




