第7章 教会(4)
総司との打ち合いは激しくて…そしてスピーディーだった。とにかく早い。
人間のスピードを優に超えたスピードで木刀を打ち込んでくる。そこまで受けて、よくやく僕はさっきの視線の意味を理解した。
こんなところまで対応できるように相手ができるなんて…彩乃しかいない。なんてこった。単にいちゃいちゃしているだけかと思ったら、末恐ろしいカップルだよ。
まったく。
勢いに押されて、木刀だけで受け続けた僕は簡単に総司に追い詰められた。
とにかく体勢を立て直そうと跳躍して、頭上でくるりと回転したとたんに、総司が追いついてきて、空中で木刀を打ち込まれた。嘘だろ。おい。
慌てて着地しながら木刀で受ければ、そのままのスピードで、また打ち込んでくる。これは…無理だ。このままだとやられる。
僕は不本意ながら、自分の力を解放した。向こう側で晴眼に構える総司が、嬉しそうに笑う。
「ようやく目の色が変わりましたね」
僕は負け惜しみに、にっと嗤った。
「このぐらいは合わせて相手してあげないと、つまらないでしょ」
そう言い返せば、総司が目を見開く。
「まだ余裕があるんですね? じゃあ、行きます」
そう言った瞬間に、一足で僕の前に来る。そのまま溜めも何もなく、喉元に木刀を突き出されて、慌てて僕は下がった。身体を捌く隙もなく、後ろに下がるしかない。
そんな僕を総司が逃がすはずはなく…また間合いを詰めてくる。正面から打ってくるかと思えば、くいっと足を引っ掛けられた。
バランスを崩しつつも、総司の頭上を越えようと跳躍すれば、即座に上を狙って打ち込んでくる。
うわー。本当に勘弁して。
そうだよ。彩乃のほうが僕より動きは早いだろうし、跳躍力だってある。それを相手に稽古していたら、僕の動きなんて読まれるよな。うん。
そこまで思考して、僕は別な方法を取ることにした。彩乃が多分やらない手。動きにフェイントを入れて、そして剣術以外の武術を使う。
よし。
僕は総司の前で、木刀で打つふりをして、そして足を引っ掛けるふりをする。両方のフェイントを総司が避けたところで、避けた場所へ向かって木刀を両手で持って総司の首を押さえつけて、床へ倒した。
どしんっ。
凄い音をさせて総司がひっくり返る。僕も必死だったからね。手加減も何もあったもんじゃない。
息を弾ませて、床に倒れている総司を見れば、総司も息を弾ませたまま、僕を見上げていた。そして総司がへにゃりと笑う。
「追い詰められたんじゃないですか?」
ぱっと木刀を緩めれば、総司が身体を起こして床に座り込んだ。いい笑顔だよ。
「次は、俊から一本とりますから」
うん。多分。結構ぎりぎり。なんかやばい気がする。でもそれはそれで面白かった。だって一対一の勝負で、僕とここまでやりあえた奴はいない。
思わず僕は笑った。凄く面白い。こんなことがあるなんて、想像したことも無かった。
「俊?」
突然笑い出した僕に、総司が怪訝な顔をする。
「あ、ごめん。総司。凄く楽しくて。面白くて。ああ、またやろう。次は…もうちょっと僕も稽古してくるよ。こっそりね」
そう付け足せば、総司も笑った。
「俊がこっそり稽古するなら、私ももっと稽古に励まないといけないですね」
いつの間にか彩乃が総司の後ろに来ていた。その手を総司が掴む。
「彩乃には協力してもらわないと」
そして二人して視線を合わせてにっこりと笑ってから僕を見た。
「ああ。びっくりしたよ。そこまで動けるようになっていると思わなかった。参った」
正直に言えば、総司が照れたように笑って、彩乃が嬉しそうに総司の手を握り締めた。まったく。やられたね。
ちらりとギャラリーとなっている席を見れば、土方さんが何やら考えこむような顔をしていて、そしてレイラが微笑みながら僕たちを見ていた。




