第7章 教会(3)
「行くよ」
宣言してから、僕は片手剣の要領で土方さんに剣を突き出しながら、身を沈めた。つまりフェンシングの要領で突きを出したわけだ。土方さんが慌てて体を裁いたところで、片手を床について次はカンフーの要領で足払いをかける。
今度は手加減せずに体重が乗っているほうの足を狙ったから、土方さんの身体が斜めにかしいだ。
すかさずそのまま身体を起こして木刀を振り上げる。倒れている土方さんに打ち付けたけれど、さすがに土方さんはそのまま攻撃はさせてくれなかった。床に寝転んだままの不利な体制とは言え、木刀で僕からの攻撃を受けて、足を振り上げてくる。
僕は蹴り返されないように、体をひねってよけると、そのまま木刀を引いて、もう一回土方さんの喉に突きを入れた。
わずかな動きで首がそらされて、木刀は床を突いた。
ゴン。マヌケな音がする。
気に入らないな。僕のほうが優勢なのに、今一歩のところで詰めきれない。
ゆらりと土方さんが立ったところで、すかさず蹴りを入れた。土方さんの身体が飛んでいったが、途中で持ちこたえて止まる。
そこへ間合いを詰めて、上から打ち込めば鍔ぜり合いの形になった。
にやりと土方さんが嗤った瞬間、木刀が消えて、僕の右側から打ち込まれる。鍔ぜりあいになった右手はそのままに、片手で打ち込んできたわけだ。
僕は大きく一歩退いた。
そこへ土方さんが今度は攻めてきた。それを打ち返して、僕は土方さんの体勢を見ながら、半身で捌いて、土方さんの腕を片手で取る。
普通に木刀で、日本刀の形で土方さんとやりあっても、僕に勝機はない。さすがに百戦錬磨の達人相手に僕の付け焼刃の稽古で、勝てると思うほど僕も思い上がってはいない。
やるなら土方さんの知らない戦い方。他の形を応用するしかない。
土方さんの腕を絡めとったまま、刀を落とさせて、腰に乗せて大きく投げ飛ばす。背中を打ちつけたところで、首に肘を落とした。もちろん寸止めだけどね。
ついでに腹を木刀で押さえつけた。本身(真剣)だったら動けない。
「てめぇ…」
土方さんは身動きが取れないまま、僕のことを睨みつけて、低い声を出した。
「なんであんときに、そんだけの腕を隠していやがった」
僕はへらへらと嗤う。
「そりゃ、こき使われるのなんて真っ平ごめんだったし? 僕はお給金が適当にもらえれば良かったから」
「ちくしょう。かっちゃんの目が正しかったわけだ」
僕は土方さんを起こすように手を貸しながら、苦笑いをした。
「近藤さんのは、目っていうよりは野性の勘って感じだったけどね」
肩をすくめてみせれば、土方さんはまだ文句を言いたそうな顔をしている。昔のことで小言を食らってもつまらないから、僕は土方さんを無視して総司に声をかけた。
「で? 総司はやるの? どうするの?」
総司が嬉しそうに出てくる。
「それはやりますよ」
やっぱりね。
「どうやる? 土方さんみたいに人間の力限定?」
総司はちらりと土方さんを見て、それから彩乃に視線をやった。
なんで彩乃?
それからちょっとだけすまなそうな顔をして、もう一度土方さんを見ると僕のほうへ向き直る。
「私は全力で。今度こそ、俊の目の色を変えて見せますから」
そう言った瞬間に、総司の瞳が紅く染まった。




