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第7章  教会(2)

 お弟子さんたちが帰って、僕らだけが教会堂の中に残る。レイラと彩乃も興味津々という感じで、僕らを見ていた。僕はストレッチ代わりに、ぐるぐると木刀を振り回しながら口を開く。


「それで? どうするの? 誰からやるの? どこまでやっていいの?」


 総司と土方さんが顔を見合わせる。そして土方さんがぐっと前に出てきた。


「俺が言い出したから、俺からだな。どこまでっていうのは何だよ」


 僕は肩をすくめた。


「つまり木刀だけで打ち合うのか、体術も入れてもいいのかっていうこと」


「ああん? 実戦でダメなんてもんがあるかよ。何でもやりゃいい」


「ふーん。なんでもね」


 僕はそう言って土方さんを眺めた。


「な、なんだよ」


「いや。別に。土方さん、僕の本気を見たことないでしょ」


「ねぇよ。だけどてめぇには負ける気がしねぇ」


「そりゃ、幕末しか見てないからだよ」


 総司は土方さんの後ろから面白そうに僕らのやり取りを見ている。そう言えば、あれ以来総司ともやりあってないし。かなり久々だな。


「幕末は人間のふりをしてたし、面倒なことにならないように、できるだけ下手に見せてたし」


「やっぱりか。てめぇ」


 土方さんが睨むけど、僕は受け流した。


「はいはい。とりあえずやってみよう」


 そう言って木刀を晴眼に構えれば、土方さんも晴眼に構えてくる。


 さて。インパクトが大事だよね~。こういうのは。土方さんには悪いけど、初動はこっちから行ったほうがいいかな。


「始めるよ」


 そう言ったとたんに僕は土方さんの足元に滑り込んで、蹴りを入れた。


 土方さんの片足を捕らえたとたんだけど、驚いたことに土方さんはもう片方の足で、しかもめちゃくちゃなバランスで、後ろに飛びのいた。そして尻餅をつく。見下ろせば、床から土方さんが目を見張って、口をパクパクとさせた。


「な、なんだ今のは」


 それ、僕の台詞。結構本気で行ったんだけどな。まさか片足で避けると思わなかった。


「なるほどね。さすが場数を踏んでるだけはあるね」


 にぃっと嗤えば、土方さんが信じられないようなものを見たような表情をした後で、頭を振ってから立ち上がり、木刀を構えた。


「じゃあ、気を取り直してもう一回」


 今度は晴眼の構えのままでじりじりと近づいて、そして一本上から切りつけたと同時に頭上で空中回転をやって、背後から斬りつけた。ま、そっとね。


 土方さんは微動もせずに、前を向いたままだ。


「どうする?」


 僕が言えば、土方さんの肩がピクリと動いた。


「そいつぁ、人間の力じゃねぇだろ」


 低い、低い声が土方さんの口から漏れる。背を向けられたままだから、僕からは表情が見えない。


「そうだね。なかなか頭上を飛び越えるだけの脚力を持った人間は少ないかもね」


「だったら、そんなのは稽古じゃねぇ」


「はい?」


「いくら俺が、俺らが、人外だからって、稽古まで人外にする必要はねぇだろ」


 土方さんが木刀を下ろしてこちらを向いた。土方さんの強い瞳がまっすぐに僕を捉えている。


「てめぇは誰とやりあうつもりだ? やるときは人間とじゃねぇのかよ。同族でやりあうつもりか?」


 思わず僕は目を瞬いて土方さんを見つめてしまった。


「さっきの蹴りはいい。あれはやるやつが居るだろう。稽古になる。だが、今のは何だ? 曲芸じゃねぇんだぜ?」


 なるほどね。まあ、一理あるね。僕は降参という意味も兼ねて両手を上げた。


「いいよ。じゃあ、人間の範囲でやろう」


 土方さんが、にっと嗤う。


「そうだ。それこそ、稽古ってやつだろ?」


 僕もにやりと嗤った。別に人間の範疇に抑えられていたって、悪いけど負ける気はしない。土方さんの比じゃないぐらいの場数を僕も踏んでいるからね。


「じゃあ、気を取り直してもう一度」


 そう言って晴眼に二人して構える。


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