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間章  痛み

女性の月のものネタです。苦手な方は飛ばしてください。(読まなくても本編に影響ありません)

-------- 彩乃視点 --------


 お腹が痛い…。でも仕方ないの。レイラちゃんにも教えてもらったけれど、どうしようもない。


 わたしは一人、ベッドの上で、お腹を抱えて寝返りを打った。そのとたん感じる総司さんの匂い。いつも総司さんが寝ているほうを向いたから、総司さんの匂いがわたしの鼻をくすぐる。好きな人の匂い。


 お腹が痛いのは、総司さんのため。いつか…総司さんとわたしの子供を持って、家族を作るため。そう考えれば、じんわりとした痛みも少し和らぐ気がする。


 とんとんと階段を下りてくる総司さんの足音がして、そしてドアが開く。


「彩乃?」


 わたしは重い身体をベッドから起こして、総司さんに微笑んだ。ちょっと失敗しちゃったかも。とたんに総司さんが顔をしかめて駆け寄ってくる。


「痛いの?」


「…うん」


 そう答えれば、総司さんはすぐにベッドに入ってわたしを後ろから抱きかかえたまま横になった。当然わたしも押し倒されるように一緒に横になる。


「総司さん?」


 総司さんの両手がお腹に回ってきた。そして一番痛いところを暖めてくれる。大きくて暖かい総司さんの手の平が、わたしのお腹に添えられているだけで、痛みが和らぐ気がした。


「ごめん。彩乃」


 耳元をくすぐる総司さんの声。


「なんで謝るの?」


 総司さんの髪の毛がわたしの頬を撫でる。顔を首筋に伏せているのがわかった。


「何もしてあげられないし、代わってあげられない」


 ぽつりと聞こえる総司さんの声。


「総司さんは男の人だから…代わってもらえないし。代わられたら困るし」


「彩乃?」


「だってね。わたし幸せなの。だって…人間の女の子はみんななるんだよ? みんな痛いって言ってたもん。わたしは知らなかっただけ」


 お腹の上にある総司さんの手に自分の手を重ねる。


「でも…普通の女の子は…こんなに大事にしてもらえないと思うの」


「どういう意味?」


「だって…好きな人が痛いときに傍に居てくれるの。わたしが総司さんを独り占めだよ? ね? 幸せでしょ?」


 そう言った瞬間に、総司さんの腕がぎゅっと締まった。


「それにね、この痛みの先に、いつか総司さんとの子供が…って思ったら…ほら。幸せでしょ?」


 総司さんの髪の毛が首筋に触ってくすぐったい。


「子供ができるって、大変なんだって。お腹の中に何かが詰まってるみたいで重いって。教会に来ていた妊婦さんが言ってたの。でも、お腹を撫でながら…とっても幸せそうだった。だからね。いつかね」


 総司さんからの返事はないの。どうしたのかな?


「彩乃…ごめん。私が不甲斐なくて…」


 総司さんの搾り出すような声。思わず慌てた。


「あっ。総司さん。待って。子供、今すぐ欲しいわけじゃないの。ううん。欲しいって言われても、今は嫌」


 総司さんが顔を上げた。


「えっとね。わたし、学生だし。もうちょっと総司さんと二人っきりがいいし。えっと。二人でもっと旅行とかしてみたいし。遊びに行ったりとか…」


「うん」


「だから…総司さんともっと一杯、二人きりでいて、いろんなことをしたいの。それでね。自然に子供ができるのがいいかなって思うの」


「ああ」


「だからね。だからね」


「いいよ。彩乃。わかった」


 優しい声が耳元をくすぐり、暖かい唇が耳に触れる。


「ありがとう」


 ぎゅっと抱きしめられて。でも手はそのままだからお腹が暖かい。総司さんのおかげで痛みが和らいだ気がする。


「暖めてくれたから…お腹が痛いのが、少し良くなった気がするよ?」


 そう伝えれば、ちょっと笑みを含んだ声が返ってきた。


「じゃあ、湯たんぽでも用意しようか?」


 思わず首だけ振り返る。でもぴったりくっつかれているから顔は見えなくて、諦めてもう一度前を向く。ちょっと拗ねて。


「総司さん。分かってて言ってるでしょ」


「何が?」


「わたし、総司さんを湯たんぽ代わりにしてないよ。総司さんが手を当ててくれてるから痛くないの」


「うん。知っている」


「分かってて、からかってるの?」


「うん」


「酷い」


 そう言えば、ちっとも悪く思っていないような声音で「ごめん」と返ってきて、そして首筋に唇が落ちてきた。


「可愛くて…食べてしまいたい」


 ゆっくりと首筋を甘噛みされて、思わず首をすくめれば、笑われた。


「総司さんが食べたいなら…いいよ? わたしは総司さんに食べられても」


「食べたらなくなっちゃうから。もったいない」


「ん~。食べたらなくなっちゃうけど、いつもわたしが総司さんの血を飲んじゃってるから、わたしの血も飲む?」


 首筋を這い回っていた総司さんの唇の動きが止まった。


「彩乃?」


「いいよ。飲んで。あ、でも後で冷蔵庫の血液、わたしのために取ってきてね?」


 総司さんの喉がごくりと鳴る。なんか…総司さんがいつもわたしに首筋を出してくれる気持ちがちょっとだけ分かった。好きな人のためだったら、なんでもしてあげたい。自分ができることなら、なんでも。


「ちょっとだけなら大丈夫だよ。ね?」


 誘うように言って、勇気付けるように総司さんの手をぽんぽんと叩けば、総司さんの唇が再び強く首筋に押し付けられて、そして…。


「あぁっ…」


 思わず鼻から抜けるような甲高い声を上げてしまった。チリッとした痛みが来て、そしてドクリと自分の首から血が抜かれるのがわかった。痛いけど…それと一緒に自分を好きな人に捧げているという恍惚感が来る。


 でもすぐに終わってしまった。


「もういいの?」


「充分」


 総司さんは噛んだところをチロリと舐めると、チュッと音をさせて、その部分にキスをする。


「この体勢はいろんな意味で危ない」


 総司さんはそう言うと、わたしのお腹から手を解いて、ベッドから出てしまった。


 思わず寂しくなって立ち上がった総司さんを見上げると、彼は困ったような顔をしている。


「彩乃。今はダメ。煽ったら、いろんな意味で止まらなくなりそうだ」


 そしてぽんぽんとわたしの頭を撫でると、にっこりと笑った。


「血液と…湯たんぽも持ってくるから、待っていて」


 寂しいけど、仕方ないから頷けば、彼はくるりと背を向けて部屋を出ていった。



 いろんな意味で危ない?


 それからゆっくりと答えが分かって、思わず顔が赤くなっていくことを感じた。うん。たしかに危ないかも。でもそれは…総司さんがわたしを求めてくれているということで…幸せでもあるよね?



 わたしはベッドの上で、一人で笑ってしまった。誰も見ていなくてよかった。 


 お腹は痛いけど…でも…こんなに大切にしてくれる人が傍に居るということは、幸せだと思うの。だから…続く痛みを抱えて、わたしは暖かい気持ちでいる。大丈夫。これぐらい、なんでもないもん。うん。


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