第6章 嫌がらせ(6)
やれやれ。組ね。まあ、新撰「組」だしね。僕は思わず苦笑いした。
「ああ。僕らがいたところ、新撰組って呼ばれてたから」
あっさりばらしたことに、今度は土方さんが僕を見る。でもさすがに何も言わずに成り行きを見守っている状態だ。
「ま、組は組だよね」
そうへらへらと笑って言えば、店の中に安心感が広がった。近藤さんも、ほっと息を吐く。そして土方さんの方へ笑いかけた。
「トシ、人が悪いな」
「組は組だ」
土方さんが言えば、客の間に笑いが広がった。まあ、誰も本当の新撰組だとは思わないよね(笑)
「元ってことは、今は?」
雰囲気が和んだせいか、別な客からも質問が飛ぶ。
「今はうちの居候。僕の父親が連れてきちゃってさ。転がり込んできたんだよ」
転がり込みたくて、来たわけじゃねぇぞ…と隣でぽそりとつぶやかれたけれど、それは無視した。どうせ皆には聞こえてないし。
「ま、上司としては細かいし、口うるさいけど、男気はあって、みんなに好かれてたよ」
そうフォローすれば、客が納得したように頷いた。
「トシさん、世話好きだもんな」
と一人が言えば、他の客からも出てくる。
「この前も若いやつの人生相談に乗ってやってたし」
「あれは、そんなんじゃねぇよ。説教してただけだ」
照れ隠しのように土方さんが言えば、別な客がまた口を開く。
「そういや、一緒に来たキャバクラの女の子が泣きながらトシさんに身の上話をしてたよな」
「うるせぇ。バラすなよ。んなもん、聞いてんじゃねぇよ」
そう土方さんが言えば、また客がどっと笑った。
店の中で謎の存在だった土方さんの過去…っていうには、ごまかしが多いけれど、それでも一部が分かったことで、皆の気持ちが緩んだようだった。
この日は結局、クローズまで土方さんは皆から質問され、いじられていた。土方さんはどこにいても、やっぱり土方さんだったわけだ。
帰りの車の中で、僕は土方さんにニヤニヤしながら話しかけた。
「慕われてるね~」
「男に慕われても嬉しかねぇよ」
言葉とは裏腹に口調が照れたふうで、こういうところが土方さんはかわいいんだよな。そこまで考えて、僕はふと真顔になった。
「でもさ。土方さん。ヤクザの相手ってまずいんじゃないの?」
「ああん?」
「昔よりも組織立って動いているし、場合によっては武力も辞さないし」
僕の言葉に土方さんが呆れたような声を出す。
「てめぇ、俺を誰だと思ってやがる」
「いや。まあ、一族になったとは言え、死ぬときは死ぬし」
「違ぇよ。俺が短筒だの、刀だのを怖がるかよ」
「まあ、そうだろうけど」
くるくると左に車のハンドルを切って曲がりながら返事をすれば、土方さんがため息をついた。
「分かってねぇな。ヤクザって言ったって、所詮素人だろうが。俺がやってたのは玄人の戦だぞ? 新撰組なんて、おめぇ、人斬り集団だろうが」
あ。確かに。
「平和ボケしてんじゃねぇよ。総司だって今じゃ大人しくなっちまったが、あいつだって凄腕の人斬りだ。斉藤だの、新八だのが居たんだぜ? その副長やってた俺が、ヤクザものぐらい怖がるかよ」
こりゃ、僕が悪かったね。
「たまに『人を殺してるんだ』なんて、いきがってくる奴もいるけどよ。何人殺してんだって話だ。俺より多いんだったら認めてやるけどよ」
そりゃ、あの時代に刀を振り回して、ついでに戦争までやってる土方さんに勝てる現代日本人なんて…いない確率のほうが高いだろうな。
「それにいざとなりゃあ、総司もおめぇもいるしな。デビとジャックもいる。あいつらも話は聞いたが、戦にかけちゃ玄人だろ?」
はぁ。確かにね。デイヴィッドとジャックの二人は傭兵だからね。戦闘のプロだな。それに幸か不幸か、今うちにいるのは一族ばかりだ。彩乃もか弱く見えて、あの時代を潜り抜けてきているし。戦闘能力っていう意味では一番低いのはレイラかな。それでもそれなりの経験はあるから、戦いの中で自分の身を守る程度はやるだろう。
そういう意味ではうちにいる連中と、どこかの集団がガチンコ勝負したら、相手がかなりの人数をそろえない限り、負ける気はしない。
「とはいえ…いたずら電話が続いてるのは事実だし?」
僕がちらりと言えば、土方さんが言葉に詰まった。
「電話ぐらいならいいけどさ。実害が出そうになったら、かかる火の粉は払うからね」
「おう」
ま、とりあえず土方さんは、現代でも居場所を見つけ始めたみたいだし。いたずら電話ぐらいだったら、レイラに応答プログラムを作ってもらって、なんとかしておこう。




