第6章 嫌がらせ(4)
どうやら結構大人数で来ていたらしい。やれやれ。仕方なくグラスを置いて立ち上がる。人間相手に後れを取るはずはないけれど、ここで何もしないで座っているのも居心地が悪い。
「ちょっと、加勢に行ってくるんで。ここ、このまましておいて。続きは後で飲むから」
「お、お客さん?」
近藤さんの不安そうな顔に僕はひらひらと手を振る。
「大丈夫。僕も相当強いから。あ、僕らが戻ってくるまで、お店から出ないでね」
そう言って安心させるためににっこり笑うと、ドアを開けて外へ出た。土方さんをずらりと囲む十数人。すでに何人かが地面に寝転んでいる。僕が出てきたのを見て、土方さんがちらりと振り向いて、にやりと嗤う。
「おう。来たか」
「来たかじゃないよ。さっさと片付けなよ。おちおち酒も飲んでいられない」
「そう言うな。てめぇの憂さ晴らしをさしてやる」
「いや、僕、別に憂さは溜まってないし」
のんきに会話する僕らに待ちきれなくなったのか、右端から男が突っ込んでくる。その片手を握ってくるりと地面に寝転がした。
「えっと…どうするの? 気絶? 骨折? 殺す?」
脅しも含めて言うと、土方さんから呆れたような返事がくる。
「てめぇ。殺してどうするよ。せいぜい骨を折るぐらいにしておけ」
「だってさ」
土方さんの言葉に、僕はボキリと男の腕を折った。
「うわーっ」
わっ。煩い。慌てて気絶させる。
「店の前で騒いだら、煩いでしょ。今度声を上げたら…殺すよ?」
「そうだな。騒ぐ奴は静かにさせねぇとな」
僕と土方さんの殺気に相手が一瞬ひるんだ。
「て、てめぇ。俺らがどこのもんか分かってんだろうな」
男の一人が喚く。僕は冷ややかにその男を見た。
「どっかのヤクザさん?」
土方さんに聞けば、
「しらねぇよ」
との答え。相手を知らなくてやってるのか。この人は。
「なんか名乗られたけどよ、雑魚なんざ覚えちゃいねぇ」
土方さんは、突っ込んできた鉄パイプを半身で捌いて、相手の手を取って投げ飛ばした。
相手が避けたことに対して、驚いたような反応をしたけど、そりゃそうでしょ。鉄パイプなんて、あの時代の真剣勝負に比べたらおもちゃみたいなもんだし。それに土方さんの反射速度は一族になった今、段違いのはずだ。
「おう。宮月。お前、そっちの六人な」
「え~。土方さんの仕事でしょ。どうして僕のほうが人数多いのさ」
「そっちのほうが雑魚だろうが」
まあ、確かに。
「はいはい」
「てめぇ。真面目にやれ」
「手伝ってあげるだけ感謝してよ」
そう言って、僕はさっさと片付けるべく、六人に向かった。ま、足で蹴りいれて、同時に肘で打って、その二人が倒れたところで、次の二人に両足で蹴りを入れれば、残るは後二人。その二人の首筋を手刀で打てば、簡単に気絶した。
土方さんは一人づつ、投げ飛ばしている。相手は鉄パイプを持っていたけれど、それも軽々捌く。ついでにナイフも出てきたけれど、これも手首を握ってひねり落としている。あっという間に出来上がり。
僕は自分が倒した分を一人ずつ暗がりのある路地に運んでいって、それを積み上げた。
「てめぇ、何してやがる」
「いや~。なんかで見てさ。やってみたかったんだよね~。悪い奴積み上げておくって」
嬉々としてやっていたら、土方さんも手伝ってくれた。なんとなく歪な形のピラミッドだなと思っていたら、土方さんが呟いた。
「土壇場斬りみてぇだな」
「あはは」
思わず乾いた笑いが出る。それは洒落にならない。
土壇場斬りっていうのは、首を落とした罪人の身体を積み上げて、真剣で試し斬りすることだ。重ねた身体のうち何体分斬れるかによって刀の価値が決まる。土方さんが言うと、本当にやりそうで怖い。




