第5章 やきもち(9)
「ちょ、ちょっと。レイラ。僕にその気は…」
「無いなんて言わせないわっ! それに100年以上も待ったのよ。あなたの気持ちがはっきりするまで待つなんて、なんでもないわ。そして、私はあなたとの間に、どんな子供が生まれても迫害なんてさせないっ!」
「レイラ…そうは言っても、下手な子供が生まれれば捨てる親なんて、山ほど…」
レイラが僕の言葉を遮って、精一杯僕を睨みつけてくる。
「人間と一緒にしないでっ! 私があなたの子を捨てるはずがないっ!」
そう言った瞬間に、彼女は僕に熱烈なキスをしてきた。デイヴィッドとジャックが低く口笛を吹く。
「覚えておいて。私があなたを落とすわ。メアリも余計なことはしないでっ!」
あ~。なんか熱烈な告白を受けているのに、宣戦布告に聞こえるのは…なんでなんだろうか。
デイヴィッドが出てきて、ぽんとメアリの肩を叩いた。
「レイラだって、ちょっと血が薄くなるけど、マスターの相手として不足は無いんじゃないの?」
レイラは父さんの妹の子。人間から眷族になった父親との子だから、彩乃より血は薄い。それでも確かに人間を眷族にして結婚するよりは濃い。ちなみにキーファーは父さんのもう一人の妹の子だ。やはり父親は元人間。レイラの父親とキーファーの両親はすでに亡くなっている。
僕と彩乃は両親とも生粋の一族だから、一番血が濃いけどね。
余談だけれど、僕らの血族でもう一人残っている叔父は、父の弟。この叔父に子供はいない。叔父と叔母が一人ずつ。そしていとこが二人。それが残っている僕らの血族の全てだ。
デイヴィッドの言葉にメアリが頷いて、レイラを見た。
「マスターを…坊ちゃまを…よろしくお願いします」
「任せて」
いや、そこ。僕の意思を無視して話を決めないでよ。
僕が口を開こうとしたところで、デイヴィッドがパンと手を打った。
「やったわね。じゃあ、今日はお祝いよっ!」
「い、いや…僕は認めて」
無いと言おうとしたところで、土方さんから小突かれる。
「おめぇ、また話を蒸し返すつもりかよ」
「いや、そうじゃないけど」
「じゃあ、いいじゃねぇかよ。この場は納めとけ」
あっけにとられた僕を放って、皆が無理やり酒盛りを始める。彩乃と総司はいつの間にか婚約したか、結婚したかというぐらいの持ち上げられようで、レイラには皆からエールが飛んでいた。
えっと…。
皆から無視された形の僕は…どうしたらいいんだ?
僕は散々迷って、結局さっきやろうとしていた続きをすることにした。つまみ作りだよ。なんか違う気もするんだけど…。
まあ、いっか。
李亮も来て、李亮のお母さんもついでに来て、なんだか知らないうちに、海さん夫婦も呼んだらしい。海さんと小夜さん夫婦の小さなお嬢さんも、さすが一族。夜行性で李亮と一緒にお菓子を食べて、元気一杯に喜んでいた。
李亮のお母さんは僕たちのことを知っているのか、知らないのか。楽しそうにしている息子の傍で、少しだけお酒を飲んでほんのりを頬を染めている。そして騒いでいる最中に、デイヴィッドから話を聞いた海さんが、こんなことを言い出した。
「え? 俊哉さん、結婚相手を探しているんですか? それならお見合いを…」
思わず僕は慌てて、海さんを遮る。
「いや探してないから。デイヴィッド、適当な話をしないでよ」
とたんに彩乃たちと話していたレイラが聞きつけて、僕の隣に割り込んできた。
「そうよ。彼は私のものなの! 私、彼の子供を生むのよ」
「い、いやレイラ」
「ねっ?」
チュッ。
頬を掠めるレイラの唇。ああ。もう勝手にしてくれ。
「ああ。そういうことですか。おめでとうございます」
盛り上がる海さんの横で、複雑な表情をする小夜さん。
「お祝いなら彩乃と総司よ~」
デイヴィッドが余計な一言を言うもんだから、また海さんが誤解する。
「おお。じゃあ、二重におめでたいですね」
「いや。海さん、誤解しないで。まだ何も状況は変わってないから。総司と彩乃は恋仲のまま。僕とレイラはいとこのまま。どっちにも子供はできてないし」
「え? そうなんですか?」
「ええ~。マスター。いいじゃないの。お祝いよ。お祝い」
「デイヴィッドっ! 混ぜ返さないっ!」
こうして海さんは混乱したまま、デイヴィッドはいい加減なことを言い続けて、なんだか良く分からない状態で酒宴は続いた。
そして数日後、メアリはイギリスへと帰って行った。レイラにくれぐれも僕を頼むと言い残して。




