第5章 やきもち(5)
さっきから総司たちが帰ってきた気配はしていたんだけれど、彩乃の声を聞きつけたらしい。ほら。ナイトのお出ましだ。
「俊、彩乃、何をやっているんですか?」
「総司さーん」
彩乃が泣きながら総司にしがみついた。世話が焼ける。まったく。総司の問うような視線に、僕はひょいっと肩をすくめた。
「お兄ちゃんが酷いの。お兄ちゃんが…。総司さんは約束破るかもって言うの」
「はい?」
総司の腕の中から、彩乃が僕のほうを振り返る。
「総司さんは約束を破らないもん。お兄ちゃんなんて嫌いっ!」
そう言ったとたんに、彩乃がわんわんと総司の腕の中で泣き始める。
「はいはい。僕は酷いよ。ほら。仕事の邪魔しない。出た出た」
僕は苦笑いをして、総司と彩乃を追い出した。ま、なんとかなるでしょ。
それから三日ほど、彩乃は僕と口をきいてくれなかった。こんなことは初めてだけど、遅く来た反抗期だと思えば、それもいいか…と、そのまま放っておいた。
あ、酷いかな? ま、いいよね?
数日後。彩乃が大学に行っている間に、僕と総司はリビングでお茶を飲んでいた。今日は総司の趣味に合わせて緑茶に和菓子だ。
「あ~。なんと言うか…すみません」
「え? 何?」
「彩乃のこと…。俊に八つ当たりさせてしまったようで…」
へにゃりと眉を下げて情けない顔で謝る総司に、ちょっと複雑な気分になる。今まで彩乃の保護者は僕で、僕が彩乃の代わりに謝ることはあった。でも…今は、総司が彩乃の代わりに、僕に対して謝っている。
こうやって…彩乃は僕の手を離れていくんだな。
家の中は静かだ。レイラは相変わらず部屋で何かやっているらしい。彼女の仕事は主にコンピュータやネットワーク関連らしいので、部屋に閉じこもっているときは大抵仕事中だ。そして土方さんは昼間からどこかに出かけていた。
デイヴィッドたちは、どうやら家の周りにいるらしいけれど、物音も気配もない。
「ところで総司、仕事探しのほうはどう?」
僕の言葉に総司がへにゃりと笑う。
「なかなか難しいですね。この時代で、自分が何をやりたいのかわからない」
総司は指を折りながら、数え上げていく。
「提示されている仕事が、どのような仕事なのか分からない。自分にできるかどうかもわからない」
そして顔をあげる。
「分からないことだらけです」
僕は微笑んだ。
「まあ、ゆっくりと探せばいいよ。または適当にやってみるという手もある」
総司が問うように小首をかしげる。僕は肩をすくめた。
「僕らはほとんど年を取らない。同じ場所に居られるのは十年から二十年が限度だ。そう考えれば、手当たり次第に仕事をやってみて、好きなものが見つかれば続ければいいという考え方もあるよ」
ああ…と総司が納得したように声をもらした。
「僕らは人間よりも体力はあるし、やろうと思えばなんでもできるよ。あとは好きか嫌いかだけだね」
「なるほど」




