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第5章  やきもち(3)

 夜。自分の部屋で礼拝用の説教の内容をまとめていたら、コンコンとドアがノックされる。


「どうぞ」


 応えれば、おずおずとドアを開けてきたのは彩乃だった。


「どうした?」


「総司さん…また土方さんに連れていかれちゃった」


 ちらりと感覚を動かせば、どうやらまたデイヴィッドたちと遊びに行くのに巻き込まれているらしい。


「まあ、総司も土方さんから誘われたら、なかなか断り辛いよね。それでも、かなり頑張って断っているみたいだけど?」


 僕が言えば、彩乃が面白くなさそうな顔をする。僕は視線でベッドを示して、座るように促した。大人しく彩乃が座って、僕はくるりと自分が座っているデスクチェアを彩乃のほうへ向ける。


「それで?」


「だって…総司さん、女の子に囲まれてるよ?」


「うん。きっとね」


「酷いよ。わたしがいるのに」


「まあ、幕末でも似たような状況だったし。総司が島原に行くのは、かなり少なかったけどね。それに彼らが行ってるのは、ちょっと女の子がお酌してくれるぐらいのお店みたいだし。心配すること無いんじゃない?」


 彩乃は俯いた。


「でも…あのときは…わたしと付き合ってなかったもん。今はわたしがいるんだよ? 彼女がいるのに…」


 ああ。なるほどね。


「でも、そういうところの女の子は、本気じゃないよ」


「それでも嫌なの。それに本気になったらどうするの?」


「総司は相手にしないでしょ」


「分からないもん。もしかしたら…わたしよりもかわいい子とか…いるかもしれないもん…」


「彩乃は自分以外の女の子と総司が喋るのが嫌なんだ?」


 そう尋ねれば、彩乃がしばらく黙った後に、こくんと頷いた。やれやれ。


 僕たちの種族の成長はかなり遅い。だからあの世界に行ったときに、外見上は十八歳だった彩乃も、精神的には人間の小学生か中学生か…というぐらいで、総司の恋心の理解なんてまるでしていなかった。


 それがあっという間に理解できるようになって、そして今じゃ相思相愛。まったく驚くばかりだ。


 とは言え、きっとこういう気持ちは彩乃にとって、初めてなんだろう。


「総司さんが…土方さんに連れて行かれると、辛いの。わたし以外の女の子と話をしていると思うと、嫌なの。なんか…自分の中に一杯、ドロドロしたものが溜まるの」


 彩乃が俯いたままポツンと言う。


「彩乃。それは嫉妬だよ」


「嫉妬?」


 彩乃の顔が上がって、小首をかしげる。


「そう。嫉妬。やきもち。総司と話している見えない相手に嫉妬しているの」


「…どうしたらいいの?」


 僕は肩をすくめた。


「どうもしない」


「そんな…」


 僕は彩乃に微笑みかけた。


「もしも総司が彩乃に、男の子と…っていうか、僕も含めて男性と一切喋っちゃダメって言ってきたら、どうする?」


「困る…」


「うん。もしも僕とも喋っちゃダメだし、サークルの子とも、先生ともダメって言われたら困るよね」


「うん…でも…嫌なの。総司さんが他の女の子と喋って欲しくないの」


「こらこら」


「だって…嫌なんだもん」


 まるで子供だ。…あ、まだ子供か。そうなんだよな。うん。


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