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第5章  やきもち(1)

「土方さん、どうやら用心棒みたいなことをやっているらしいです」


 リビングのテーブルの上には、香りのいい紅茶とビスケット。ソファには僕の前に総司と李亮が座っていた。


 僕と総司に遠慮して、ちらちらとテーブルの上のビスケットに視線をやる李亮に、僕はビスケットの皿を押しやった。


「いいよ。好きなだけ食べなよ。まだ戸棚にたくさんあるし」


 僕の言葉に李亮が安心したように手を伸ばす。無意識に浮かべている嬉しそうな微笑に、僕も釣られて笑みがこぼれた。


「さてと。で? 土方さん、どこの用心棒しているんだって?」


 僕は総司に向き直った。


 あまりに土方さんが僕には何も話さないもんだから、総司に訊いてみたわけだ。


「バーですよ。あの…」


 総司が口ごもった。それで僕は察しがついた。


「例の近藤さんのところか」


「ええ」


 僕はため息をついた。近藤局長にそっくりな男がやっているバー。総司も連れていかれたらしく、そっくりさんを見て驚いたそうだ。


「本人…でしょうか?」


「分からない」


 土方さんや総司に何度尋ねられても、僕の返事は一緒だ。なんとも言えない。


「僕は他人の空似だと思っているよ。または近藤さんの血縁者か」


「まあ、そうですよね。そう考えるのが妥当です」


 総司は歯切れ悪く答えた。


「っていうか、僕よりも総司の方が近藤さんのことはよく知ってると思うんだけど。どう思うわけ? 同一人物?」


 総司はゆるゆると首を振った。


「分かりません」


 僕は紅茶を一口飲んだ。


「チベットのダライ・ラマが転生するときには、その前の代のダライ・ラマの遺品を並べて、選ばせるそうだよ。転生者は間違わずに選択するんだそうだ。その他にも転生の証拠がいくつかあるらしい。あまり僕も詳しくないけどね」


「近藤さんの遺品は…」


「どうかな。残っていたとしても複数の品の入手は難しいだろうね。確実さを求めるなら、いくつか持ってこないと」


「そうですよね」


「近藤さんに転生していて欲しいの?」


 総司が顔をあげて、そしてまたゆっくりと視線を紅茶に落とす。


「いえ…それすらも、自分ではよく分からないです。近藤さんは親代わりのような方で思慕はありますが…私の中で、あの時代は終わりました」


 僕はため息をついた。この話はしていても不毛だ。


「ま、いいや。近藤さんのことは『分からない』でいいよ。土方さんは一応まっとうな仕事をしているみたいだし」


「そう…ですね」


 総司の視線が手元の紅茶カップに落ちたままだ。


「どうしたの?」


「いえ…土方さんはさすがです。現代に慣れるのも、仕事を得るのも早くて…」


 あ~。うーん。慣れているっていうか、全部無視しているっていうのが正しいと思うんだけどな。あの人の場合は。


「総司もそろそろ職を探しても大丈夫だと思うよ?」


「え?」


 僕の言葉に総司が顔をあげた。


「データはレイラがそろえてくれたから、学歴は大卒。下手な大学生よりは知識を詰め込んだと思うしね」


 総司の目が驚いたように見開かれる。


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