第4章 お留守番(8)
「そういえば…。三条橋詰の制札場に八幡屋の卯兵衛さんの首がさらされた件はご存知ですか?」
「なんか首が…って話は聞いたけど」
制札場っていうのは簡単に言ってしまえば、幕府が出す掲示板だ。ここにみんなに知っておいて欲しいことを木の札に書いて掲げておくと、通りがかる人が見て、お知らせが広まっていくという仕組みになっている。
今だったら、インターネットの行政のページとか、そんな感じかな。
「それがどうしたの?」
「その首の傍に札があって、大和屋庄兵衛も同罪って書いてあったんですよ」
「知り合い?」
「まあ、豪商ですからね。ちょっとは。生糸の買占めで財を成した方ですよ」
口ぶりからすると、あまり良くは思ってないのかな。
「その大和屋さんが、命乞いのためにあちこちに献金をしてるらしいです。朝廷とか、天誅組とか」
「天誅組?」
「勤王の志士ですよ」
えっと、言葉が結構難しいな。天誅っていうのは、本当は天が下す罰のことなんだけど、このところは「天に代わって成敗する」っていうような意味のときに使われる。今風に言うなら「天に代わっておしおきよ!」って感じ? いや古すぎた。ごめん。
勤王っていうのは、天皇を中心にして外国を排除しようっていう考え方の人たちって言えばいいのかな。
善右衛門さんの話によると、どうやら最近、天誅組といわれる人たちがいて、あちこちで活動しているらしい。活動資金を集めたり、同士を集めたり、活発になってきているらしくて。その八幡屋の卯兵衛さんの事件も、その天誅組が起こしたことだそうだ。
それで次のターゲットとなった大和屋さんは、躍起になって動きまわってるんだろう。そりゃビビるよね。殺人予告だもん。
「それで、どうして欲しいの?」
「はい?」
「僕になんか期待してるんでしょ?」
そういうと善右衛門さんは穏やかに微笑んだ。
「いいえ。私は聞いた話を運んできているだけですよ。何かお役に立てればと思ってね」
思わずあっけに取られる。まあ情報は大事だよね。現代社会の情報戦ほどではなくても、やっぱり早い情報はそれだけ利益になる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。その代わりと言ってはなんですが、またこうして夜にお誘いください」
あ、そっちか。どうも善右衛門さんは商人だからか、片手にそろばんを持っているような気がする。ギブ・アンド・テイクな感じ。
まあ、僕らが一緒にいるほうが、一人でやるよりも楽らしく(そりゃ、リリアがにっこり笑えば、男がほいほいついてくるし、僕がひと睨みすれば、記憶も忘れるから、大騒ぎにならずに献血してもらえるからね)、そういう意味だったら教えてもらっておくか。
ふと気づくと、すでにリリアが次の獲物を見つけたところだった。一人につき、ちょっとしかもらえないからね。何人か見つけないといけないわけだよ。
そうして僕らは献血の強制的な依頼の続きを始めた。
夜はそんな感じで小まめに「狩」じゃなくて「献血依頼」。
昼は総司たちがいなくてもやってる見回り。




