第4章 夏、いろいろ(1)
夏が来た。
…まあ、六月が終われば七月で。それなりに暑い。とは言え、現代ではクーラーという文明の利器があるわけで…僕らの家でもフル稼働だ。
「いいな。このクーラー」
土方さんはテレビの前を陣取って、クーラーの風が直接当たるように調整して、Tシャツに短パン姿でソファに寝転がっていた。
なんだか、この人はどんどんぐーたらになっていく気がするのは、気のせいだろうか?
ため息をついてから視線を移せば。土方さんの正面には総司が力なく座っていた。こっちはTシャツにジーンズだ。
「どうしたの? 総司」
総司の隣に座るか、ダイニングの椅子に腰掛けるか思案しながら声をかければ、総司がのろのろと顔を上げる。
「てめぇの妹が水着を買うって言ったんで、落ち込んでやがるんだよ」
総司の代わりに土方さんが口を挟んだ。あ~。水着ね。
「あんなに肌をさらすような服装は、好ましいと言えません」
「でも…総司、プールに行くって約束したんでしょ?」
僕は数週間前に彩乃が嬉しそうに僕に報告してきたことを思い出した。なんでも夏にプールに行くという約束をしたそうだ。
「行くと言いましたが…あんな格好をすると知らなかったんです」
総司がのろのろと口を開く。
「水着、いいじゃねぇか」
土方さんがニヤリと嗤った。いつぞやのプール特集以来、夏に向けて、あちこちの番組では水着美女が大活躍だ。
「私以外の男の前で肌をさらすなど…」
やれやれ。
「それで? 彩乃は?」
総司の視線が床に落ちる。
「部屋に閉じこもっています…ケンカして…追い出されました」
うわー。なんか…総司ってば。すでに尻に敷かれている気がするんだけど、いいんだろうか。
トントントンと軽い足音がして、レイラが降りてきた。いまだ立ったままの僕の横を通り過ぎる。水着の話をしていたからか、レイラの服装に思わず三人で注目した。
髪をアップにして綺麗に見えるうなじ。キャミソールにホットパンツ。肩も胸元も出ているし、足も出ているし。総司と土方さんには、少し刺激が強いかも。レイラが僕らをちらりと見てから、冷蔵庫に向かうために背を向けた。
「レイラ…」
思わず声が漏れる。
「何?」
レイラが首だけ振り返った。
「その背中」
背中が大きく開いているんだよ。紐だけというか…。
「あ、これ? いいでしょ? カワイイし、涼しいから買っちゃった」
総司が慌てて視線を逸らせた。土方さんは嬉しそうに遠慮せずに見つめている。その視線にレイラが眉を顰めた。
「なんか、その目つきが嫌」
「うるせぇな。てめぇが見てくれっていうような格好してやがるから、見てるんじゃねぇか」
レイラが腰に手を当てて、土方さんを睨みつける。
「私だって、見て欲しい相手と、見て欲しくない相手がいるの。あなたは見て欲しくないほうだから」
「けっ。何言ってやがる。じゃあ、俺の視界に入ってくんな」
この二人は…。
僕が呆れた顔をしていると、レイラが僕に視線を送ってきてから土方さんを無視して再び背を向ける。冷蔵庫からジュースを出してグラスに注ぐと、それを持って階段を上がっていった。




