間章 転生
--------- 土方視点 -----------
暗闇の中でじっと酒を飲んでいると、カランコロンと音がしてドアが開いた。
「あ~。疲れた~。生ねっ!」
誰が入ってきたかと思って見れば、顔を見て仰天する。
「おめぇ。平助!」
洋服こそ着ているが、そいつは藤堂平助そのものだった。向こうもこっちを認識したのか、もともと大きい目をますます見開いた。
「うわっ。土方さんじゃん。どうしたのっ」
「どうしたのはこっちの台詞だろ。お前、なんで…」
藤堂が人懐っこく俺の隣に腰をかけた。
「今、俺、大手商社のセールスマンやってんの。もうすぐ、左之もがむ新もくるぜ」
その言葉が終わらないうちにカランコロンとまた扉が開く。
「お、待たせたか、平助…って、土方さんっ?」
「うぉい。ここで止まるなって…うわっ。土方さん」
左之と新八が入ってくる。
「新八は新聞記者。左之は消防士だぜ」
平助が解説して、左之がにやりと嗤った。
「水も滴るいい男ってね」
左之が言ったとたんに、新八が口を開く。
「左之のどうでもいい冗談は置いておいて」
「おい」
「今日は斉藤と山崎さんも来るってよ」
俺も驚いたが、他の二人も驚いたようだ。
「あいつらは…今、何やってんだ?」
俺の問いに、新八が唇の両端を上げた。
「斉藤は刑事さん。山崎さんは医者だよ。小児科だって」
ああ。なるほどな。頷いたところで、ドアがカランコロンとなって…。
目が覚めた。
身体を起こして見回せば、現代の…俺の部屋だ。宮月のやろうに間借りしている客間とか言うやつだ。
「夢か」
そうつぶやいて、やはり夢だったことに落胆している自分に気づく。そこへコンコンとドアを叩く音がした。
こんなお上品な叩き方をするのは宮月だ。っていうか、俺の部屋に来るやつなんて、あいつか総司か…ああ。あとデビもいたな。
「おう。入れ」
そう応えれば、宮月がひょいっと顔を出した。
「そろそろ昼だけど?」
「昼か…」
俺がのそのそとベッドから降りようとすれば、それだけを確認しに来たんだろう。宮月が顔を引っ込めた。
「おい」
呼び止めれば、また顔だけがドアの隙間から出てくる。
「おめぇ、輪廻転生って信じるか?」
そう問えば、奴は眉を顰めた。またかって顔だ。
「僕自身は信じない」
そっけない返事だ。
「でもよ。あるかも知れねぇじゃねぇか」
そう続ければ、宮月の身体がドアの隙間から入ってきて、そしてドアと柱の間に背中を持たれかけた。腕を組む。
「百歩譲って転生したとして、魂が同じだとしても、それは同じ人物? それで蘇ったその人と、何をするの? その人を自分に縛りつけていいとは思えないんだよね」
宮月が遠い目をして言った。
「長く生きていれば、もしかして転生してくれるかも…って馬鹿なことを考えて、世界中を探し回ったこともあるけどさ。でもある日気づいた。もしも転生していて、僕との記憶があったとしても、それでも同じ感情を抱いてくれるとは限らないってね」
宮月の言葉に思わず一瞬絶句した。探し回った? 訳がわからねぇ。
「おめぇ、誰のことを話してやがる」
俺の問いに宮月ははっと気づいて、バツの悪そうな顔をして、そしてごまかすようにへらへらと笑う。
「ごめん。ちょっと関係ないことを語った。今のは忘れて」
「あぁ?」
「いや。気にしないで。あれでしょ? 土方さんは近藤さんが転生しているって信じたいんでしょ?」
ああ。俺は今見た夢のあいつらが転生しているか知りたかったんだが、宮月は違うことを考えたようだ。あの『かっちゃん』だよ。
「正直、わかんねぇんだ」
「そうなの?」
「ああ。気もちわりぃほど似てる。だが、あれは…」
俺は言葉を濁した。どちらと言ってしまったら、その瞬間に、それが本当になっちまいそうだ。
「いや。俺も変なことを聞いた。忘れてくれ」
そう言うと宮月がひょぃっと肩をすくめた。
「うん。お互いに忘れよう」
そう言って、宮月はドアの隙間を通って消えた。
あいつの動きは…何かを思い起こさせる。猫か? いや、そんな可愛いもんじゃねぇな。
もっと獰猛な何かだ。
なんだろな。
俺はしばし考えて思いつかずに、頭を一振りしてから立ち上がった。




