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第4章  お留守番(7)



 周りを見回すと、ほぼ終わっていた。

 

 こちら側はかすり傷程度。あちら側はけが人多数。見回しているうちに、わらわらと逃げていく。


「左之、逃がしていいの?」


 僕がそうきくと、左之はトントンと刀の峰で自分の肩を叩きながら


「いいんじゃない? 面倒だし」


 大物じゃなさそうだし。と呟きながら、残っていた奴らを縛り上げる。


 不意に彩乃がきょろきょろと不安そうに周りを見回した。


「どうした? 彩乃」


 そう声をかけると、彩乃はもう一回周りを見回してから、


「総司さん…いないね」


 と当たり前のことをつぶやいた。僕は何かを言おうと口を開きかけたけれど、そこへ左之の声がかぶる。


「おーい、戻るぞ」


 見れば、左之や早太郎くんたちはすでに先のほうを歩いていて、僕らに手を振っていた。血が残る現場から彩乃を促すようにして、僕らは屯所へと戻った。





 それから数日後。あれから彩乃の様子はおかしい。正確に言うならば、リリアの様子もおかしい。


僕らは夜にそっと人通りの少ない場所を歩いていた。京都は神社がいっぱいあるから、僕らが動くにはうってつけだ。最近は夜の散歩に善右衛門さんも一緒に来ることがある。


 僕の能力は便利だからね。相手の記憶が操作できるなら、大騒ぎになることもないし。


「どうしたんです? 彩乃さん」


「なんでもない」


 善右衛門さんは、僕たちよりもかなり年上のはずなのに、出会ってからずっと丁寧な口調で話しかけてくれる。なんでも僕たちのほうが一族の中心に近いらしい。


 一族の中心っていうか、どうやら本家筋っていうらしいけど、実際、ぼくらの一族は少ないわけで、もうなんかそんなのどうでもいいんだけど。


 でも善右衛門さんとしては、僕らに対してはなんか特別な思いがあるらしくて、いくら僕が言っても、丁寧な態度は変えてくれない。別に不快ではないし、むしろ大事にされてるって思うけど、なんだろうね。


「あ、リリアさんでしたっけ」


 彩乃とリリアの関係はわかっていても、まだ慣れないらしく、善右衛門さんはよく混乱していた。


 でも確かに善右衛門さんが言うとおり、今日もリリアがおとなしい。


 実はリリアだけじゃなくて、彩乃も日に日におとなしくなっている。


 先日の不逞浪士の襲撃以来、なんかぼーっとしているときが多いような気がしていた。


「先日の…あの浪士に襲われたときから、なんかリリア、おかしいよね」


 ん~、と言いながら、考えているリリア。その仕草を見て、僕は初めて彩乃とリリアが同じ仕草をしていることに気づいた。


 思わず手を伸ばして頭をなでると、リリアがビクリと反応する。


 文句を言われるかな~と思ったけど、そんなことはなく、リリアはじっとしていた。


「なんかね、変なんだよね」


 リリアがぽつりと言う。


「よくわかんないけど、なんか変なの」


 僕と善右衛門さんは顔を見合わせるけど、答えが出るわけじゃない。


「ずっと同じことを考えてるっていうか、なんかすぐに同じことに頭が行っちゃうっていうか…。彩乃もあたしもなの」


「何を考えてるの?」


 …。沈黙。


「リリア?」


 言おうか、言うまいか、迷った風情でいながら、最後は吹っ切るように言った。


「なんでもない」


 そう言われると気になるんだけどなぁ。


「いこっ!」


 無理やり吹っ切るように、歩き出す。


 善右衛門さんと視線を交わしてから、僕は肩をすくめて見せて、リリアの後をついて歩きだした。


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