第3章 残響(4)
結局三日ほど、僕はベッドの上で過ごした。日曜日の牧師は急遽ピンチヒッターを派遣してもらうことになったし、総司たちからは毎日レイラに連絡が入っていたようだ。
すべてをレイラに任せて、僕はだるい体を横にしたまま、目が覚めては再び気を失うように眠る生活をする。
ようやく身体をなんとなく起こせるようになったころ、暇でつけたテレビで見覚えのある宗教団体の話がクローズアップされていた。ワイドショーだ。
教主を含めて上層部が行方不明になり、いきなり教団が解散をしたために、それなりのゴシップのネタになっていた。
「この教団…」
僕の傍に座って一緒にテレビを見ているレイラの呟きに、僕は頷いた。
テレビはコメンテーターが訳知り顔で、教団が集団ヒステリーになったのではないかという仮説を披露していた。チャンネルを変えても、どこも似たり寄ったりだ。見ているのも気分が悪くなるので、パチリとテレビのスイッチを切った。急に部屋の中が静かになる。
僕は再びベッドに横になった。なんだか今のでまた身体が重くなったみたいだ。
「ねえ」
すぐ横にレイラが一緒に寝転んでくる。ちなみにこの部屋のベッドは、このキングサイズのベッドのみ。だからレイラも僕の傍で眠っていた。こっちは手を出すどころじゃないしね。
「大丈夫?」
レイラが覗き込んでくる。
「何が?」
「身体」
「ああ。もうほとんど戻った。少し身体が重いけど、頭痛と吐き気は収まったから。明日には帰れるかな」
うん。多分、大丈夫だろう。僕は自分の身体の状態をもう一回確認する。
「そう…でも…もう少しだけ…数日でいいから…ここに居て?」
「レイラ?」
レイラが甘えるように僕の身体に腕を伸ばしてきた。
「二人っきりで…いたいの…」
遠慮したような、小さな声が耳元でする。
「レイラ…。僕らはもう…」
「分かってる。分かってるわ。それでも…」
レイラが顔を上げて、僕の目を見る。
「私は納得していないのよ。ずっと」
僕はため息をついた。
「それを今言うのは卑怯だよ。あの時に納得したって…」
レイラが首を振った。
「納得したフリをしていただけ…本当は…全然納得していない。それに…彼女のことが消えた今なら…私を見てくれるでしょ?」
少ししっとりした緑色の瞳がじっと僕を見つめる。
「彼女の…身代わりでもいい…なんて…馬鹿なことを言ったわ…」
レイラが僕に求めていることは分かっている。昔だってそうだ。分かっていて…それでいて彼女を利用した。そしてレイラの存在が重くなって…僕は彼女を言いくるめて、彼女から逃げ出した。
客観的に見れば…そういうことなんだと思う。
「レイラ。ごめん。やり直すのはできない」
レイラが傷ついた顔をして目を逸らした。
「どうして…」
その呟きに僕は答えることができない。
本音を言えば、レイラは魅力的だと思う。女性としての外見も素敵だけれど、一族で僕の事情も良く分かっているし、頭も良くてウィットに飛んでいる。しかも優しい。
欠点を挙げるならば怒ったときに怖い…とか、あるけれど、それを補っても余りあるぐらい素晴らしい女性だ。
何も考えなかったら、彼女といることを選んだかもしれない。
ただ…僕には僕の思惑があって…彼女の気持ちに答えるわけにはいかなかった。
「レイラ。少し眠らせて。明日…帰ろう」
僕の身体に絡み付いているレイラの腕をポンポンと軽く叩くと、僕は目をつぶった。
静かにレイラが涙を流しているのが分かる。それでも、僕は眠ったフリをして彼女の涙をぬぐってあげることはしなかった。




