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第3章  残響(3)

 次に目が覚めたのは暗くなってからだった。レイラが僕のベッドの脇で座ったままうつぶせて、自分の腕を枕にして眠っていた。


「レイラ」


 小声で呼んだ瞬間に、ぱっと顔が上がる。


「気づいたの?」


「ああ」


「調子はどう?」


 僕は自分の身体の感覚を探った。まだ頭も痛いし、吐き気もするけれど、少しはマシだった。そう伝えれば、レイラが労わるような瞳で微笑んだ。


「お腹空いた? 血…飲む?」


「いや。何もいらない。何も口にできない感じ」


 レイラが立って水差しの水をコップに入れてもってくる。


「水だけでも飲んだほうがいいわ」


 僕は首を振った。


「身体を起こしたくないんだ」


 僕の言葉にレイラはため息をつく。そしてコップの水を自分の口に入れると、僕に口付けてきた。彼女の唇を通して、僕の口の中に水が入ってくる。彼女の体温で少し生ぬるくなった水が、今の僕には刺激が少なくてありがたかった。


 全部飲み干して…もうちょっと飲みたいな…と思って視線をやれば、通じたらしい。もう一度レイラがコップの水を口に含む。


 数回繰り返されて。コップの水を飲み終わったところで、お礼を言った。レイラがいたわるように微笑んでくる。


「もう一度、眠って。次に目が覚めたら…きっと具合がよくなっているわ」


 彼女の言葉に導かれるように、僕は再び眠りに落ちた。





「ええ。大丈夫。心配しないで。私がついているから」


 レイラの声が耳に入って目を開ければ、彼女は誰かと電話で話をしている最中だった。


「大丈夫よ。総司。彩乃にも大丈夫って伝えて。ちょっとした…体調不良なの。彼はあなたたちにそういうのを見せたくなかったみたい。意地っ張りよね。ふふ。ええ。本当よ。稀にだけれど、あることだから。本当に大丈夫」


 そして僕をちらりと見ると、犬に待てをさせるような仕草を僕に向かってする。僕は犬か?


「多分、数日で戻れると思うわ。ええ。皆にもよろしく言っておいて。ええ。分かっているわ。ありがとう」


 そして電話が切れた。


「おはよう。お寝坊さん。気分はどう?」


 のろのろとベッドサイドを見れば、もう昼だった。


「気分は…悪くはないかな。少しまだ身体がだるいけど…」


「起きる?」


 僕はゆるゆると首を振った。まだ無理だ。なんとなく目が回るから起きることはできないだろう。


 レイラがため息をつく。


「電話…誰から?」


「総司。あなたの不調を…感じとったみたい。多分…デイヴィッドたちもね…」


 ああ。そうか。あれだけ酷い不調だ。多少は影響が出るだろう。


「彼ら自身は…大丈夫だった?」


 レイラがこくんと頷く。


「あなたが不調ということが分かる程度だったみたい。彼らの体調には異常無しよ」


 僕はほぉっと息を吐いた。良かった。僕が感じているような不調を彼らが感じるとしたら不幸だ。本当に体調が悪いっていうのは大変なんだということが、今更になって身に染みる。


「馬鹿ね」


 僕の心を読んだようにレイラが言った。否定することもできやしない。


「本当にね」


 僕が素直に認めればレイラが一瞬驚いたような顔をしてから、ふっと笑った。


「負けを認めるあなたを見るのも悪くないわね」


 ああ。もう。今は誰かと舌戦をやる気力もないよ。


 言い返す気も起きずに目を瞑れば、レイラが傍に来る気配がした。そっと彼女の手が僕の額に置かれる。優しい緑の瞳が僕を覗き込んだ。


「頭が痛い?」


「少しね」


「吐き気は?」


「ちょっとだけ」


「身体は痛い?」


「少し」


 レイラがそっと僕の額に唇を触れさせた。


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