表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
430/639

第2章  驚きの基準(8)

 デイヴィッドたちが帰ってきて二時間後。リビングの電話が鳴った。真夜中の電話だ。


 心配していても仕方ないし、どこにいるかも分からないから、僕も自分の部屋に上がってしまっていたので、慌てて階段を下りる。


 リビングは暗いし、土方さんはまだ帰ってきていなかった。


「はい。宮月…」


 言いかけたところで、声が遮る。


「おう。俺だ。迎えに来い」


 うわー。俺俺詐欺みたい。どんだけ俺様。聞いたことがあるっていうか、かなり知ってる声だから間違いようがないけどさ…。


僕は思わずこのまま知らないフリして切りたい衝動に駆られた。…土方さんが現代に慣れていたら、絶対に切ってたな。でもそういう訳にはいかないし…。仕方なく応答する。


「土方さん…今どこにいるの?」


「知らねぇよ」


「いや。知らないってことないでしょ。じゃあ、タクシーで帰っておいでよ。お金あるでしょ?」


「金? あるわけねぇだろうが」


 ええ~っ! なんで無いわけ? ああ。もう。


 本当に投げ出したいというか、そのまま電話を切りたい衝動を再び感じたけれど、仕方なく僕は言った。


「じゃあ、住所。どっかそのあたりに住所書いてない?」


 向こうでなにやらごそごそかすかな声がした。どうやら土方さんの傍に誰かいるらしくて、その人に住所を聞いているようだ。どこにいるんだよ。どこに。


「もしもし?」


 僕が言えば、土方さんとは違う渋い声が返ってくる。


「あ~。もしもし。こちらバー、ライト・ブルーです」


 わりと真面目な声音。どこか懐かしいような声にちょっとほっとした。


「まったく」


 思わず声に出してつぶやいてしまってから、僕は受話器を握りなおした。


「すみません。お手数をおかけしちゃって。今から迎えに行きますから、そこの住所を教えてもらえますか? ついでに迎えに行くまで、その人、引き止めておいてください。なんだったら、もう一杯飲ませておいてください。払いますから」


 住所を聞けば、車でも一時間近くかかる距離だ。仕方なく僕は真夜中のドライブに出発する。


 ライトの向こうに照らされる現代社会。真夜中とはいえ、街灯があって明るい町並みは幕末とはまったく違う。そんな中、車で土方さんを迎えに行くのは本当に不思議な感じだ。


 バーは都会の裏通り。ひっそりとした場所にあった。近所に駐車場を見つけて車を入れると、「バー・ライトブルー」と書かれた浅葱色の文字の下にあるドアにたどり着く。


 入り口に掲げてあるメニューは良心的な値段で安心した。カランコロンと軽やかなドアベルと共に扉をあければ、静かなジャズが耳に入ってくる。


 室内の照明を落とした狭い店内は細長く、奥に向かって続くカウンターだけだ。そこに土方さんと男女の一組が座っていた。カウンターの中にはバーテンダー。


 僕が入ってきたとたんに皆がこちらを見る。土方さんが僕を見てにやりと笑った。悪びれた雰囲気もない。まったく。


「ほら。帰りますよ」


 そう土方さんに声をかけて、お金を払おうとバーテンダーに向き直って…僕はそのまま固まった。


 目の前にいたのは近藤さん…だった。近藤勇。新撰組局長。


「え…」


 思わず茫然自失する。それからぐるりと見回して、ここが現代であることをもう一回確認した。


 うん。電気ある。ジャズ…少なくとも日本ではない音楽が流れている。えっと…カップルの服装も現代だ。


「お客さん…お迎えですか? あ、お会計しますね」


 柔らかく言われて、僕は我に返った。


「近藤さん?」


「はい?」


 僕の問いに、近藤さんが返事をする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ