第2章 驚きの基準(4)
なんだか分からないけど、何が起こったかと土方さんの傍に行けば、土方さんがテレビを指差す。
「見ろよ。この女。いい乳してるぜ」
思わず脱力した。何かと思えば…。
テレビの中はいつのまにか水着の女性で一杯になっている。どっかのプールの特集らしい。
苦笑いしつつも、しんみり話しているよりはこっちのほうがいいか…と土方さんの隣に座れば、また土方さんは別な女の子を指差した。
「こいつの乳もいいな。でかくていい」
「うーん。僕はもうちょっと小ぶりなほうがいいなぁ」
「そうかぁ? 女はやっぱ乳がでかいほうがいいだろ」
「あ、僕はこっちの子のほうが好み。こう、きゅっとして…」
「いや、そいつは尻に色気がねぇ。おっ。こいつの尻はいいなぁ」
「え~。ちょっと大きいし、全体的に太くない?」
「このぐらいがいいんだろうが。鶏ガラみたいのより抱き心地がいいぜ」
そうやって二人でわいわいと女の子を品定めしていたら、いきなり頭を拳骨で殴られた。
「いてぇ!」
「いたっ」
二人して頭に手をやって振り向けば、レイラがソファの後ろで腰に両手を当てて仁王立ちしている。結構、顔が怖いんだけど。
「女性がいる家の中で、しかも聞こえるように、そんな話してるってどうなの?」
土方さんと思わず顔を見合わせる。そして僕はおずおずと口を開いた。
「あ~。ごめん。あまりに静かだったんで、レイラがいるのを忘れてた」
土方さんがにやりと嗤う。
「やっぱ、おめぇ、いい身体してるぜ」
その瞬間に、レイラの平手がバチーンと土方さんに決まった。
うわー。痛そう。
ま、確かに、今日もレイラはホットパンツにタンクトップ。それにざっくりした網目風の透けたニットを羽織ってるから、体の線が丸見えなんだけどさ。
思わず僕も視線を上から下に這わせたら、いきなりバチーンと音がして右頬が熱くなった。
「最低!」
そう言い捨てて、足音をさせてレイラが階段を登っていく。何かを言おうとしている土方さんを、僕は片手で制してコソリと呟く。
「土方さん、いいケツしてるとか言わないでよね」
「おっ。宮月、分かったか」
そう会話したとたんに、レイラが二階から叫んだ。
「聞こえてるんだからねっ!」
ああ。そうだよ。一族だもんな。失敗…。
大きなドアの音をさせてレイラが自分の部屋に閉じこもる。僕が深いため息を落としたと同時に、土方さんが笑い出した。
「いいじゃねぇか。宮月。嫌よ、嫌よも、好きのうち。男はこれぐらいじゃなくちゃダメだろ」
いやいや。現代だと、それこそダメだと思う。
「こんなの可愛いもんだろ。左之はもっと露骨な話をしてたぜ?」
そうなんだよ。男だけで島原にいくと、酒が入って、もう言いたい放題。しかも傍にいる女性に手が出たりもしてたしな…。左之は皆に妙な知識をばら撒いていたし。
「懐かしいね」
「そうだな」
僕が言えば、しみじみとした声が返ってきた。
「さてと…夜まで稽古でもして時間を潰すか」
土方さんが立ち上がる。僕は片手でふらふらと手を振った。
「おめぇはやらねぇのか」
「ちょっとやることがあるからね」
そう答えれば、土方さんは興味なさそうに片手をあげて、教会堂のほうへ消えた。
そうなんだよね。土方さんは今も、気が向くと木刀や僕の刀を使って稽古をしていた。なんとなく習慣なんだろう。
さてと。僕はちょっとだけ仕事をするべく、自分の部屋へと引っ込んだ。
その日の夜、デイヴィッドに連れられて土方さんは歓楽街へ行き…そしてはまった。デイヴィッドたちも土方さんと飲むのが楽しかったらしく、それからほとんど毎晩酒盛りに出て行く。
現代でもすっきりとした顔立ちの土方さんはもてるらしい。そして水商売の女性との恋の駆け引きを楽しんでいるんだそうだ。
というのは、デイヴィッドの談。
ま、いいけどさ。大人だし。
デイヴィッドたちがついているから、まあ、変なことにはならないだろう。




