表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
424/639

第2章  驚きの基準(2)

「ところでよ。おめぇ、ちょっとばかし、金を貸せ」


「はい?」


金子きんすだよ。おぜぜ」


 そう言えば、土方さんには自由になるお金を渡してないんだよね。言っとくけど、意地悪をしたわけじゃなくて、そんな必要が無かったからさ。


「いいけど…何に使うの?」


「そりゃ、決まってるだろうよ」


 いや、よくわかんないんだけど。


「何か必要なものがあるんだったら、買いに行く?」


 そう言うと、「ちげぇよ」と土方さんから返ってくる。そして、すっと小指を立てた。


「ここにもあるのかよ。こういうところは」


「何それ」


「ほれ。島原とかよ。吉原とかよ」


 うわー。そっちか。


「うーん。あるけど、いろいろちょっとね」


「なんだよ。歯切れがわりぃな」


「仕組みが違うんだよ。あのころとは。いろいろ。それにさ」


 僕が頬杖をはずして土方さんを見上げた。


「その前に、この現代のことを勉強してもらわないと、ちょっと困るんだよね。出かけても電車に乗れないし、バスにも乗れないし、移動できないでしょ」


 そう言うと土方さんはくぃっと後ろを親指で指した。


「電車って言うのはあれか」


 ちょうどやっていたのは、新幹線のCM。あれも電車は電車だけど…。


「とにかくさぁ、僕が一生懸命いろいろ教えようとしてるのに、なんでちゃんとやらないんだよ」


「うるせぇな。こういうのは実地でやるのがいいんだよ。金貸してみろ、自分であちこち行ってみせらぁ」


 凄い自信。まいったなぁ。だからと言って、「はい」って野放しにするわけにいかないし。かと言って、僕が一緒に行くっていうのはごめんこうむりたいし。


 思わず土方さんの顔を見ながら考え込んだときだった。


「はーい。マスタ~♪」


 デイヴィッドだ。一緒にジャックもいる。二人とも相変わらずの迷彩服。なんだかなぁ。


「暇なのよ。マスター。どうしてこんなに平和なの?」


「あのね。デイヴィッド。基本的に日本は暇なの。平和なの。いきなり銃で襲撃されたりしないの。ついでに言えば、イギリスの屋敷だって平和だと思うんだけど」


 デイヴィッドが肩を落とす。


「そうなのよね~。イギリスも暇だったのよ。ね?」


 ジャックに同意を求めれば、ジャックも頷いた。


 やれやれ。


「ちなみにメアリは?」


 ジャックが肩をすくめ、デイヴィッドがその視線を受け取って口を開いた。


「ウィンドウショッピング。なんか凄く楽しいらしいわ」


 ああ。そう。良かったね~。


 そう。あれからデイヴィッドとジャックとメアリは、ホテルよりは…ということで、とりあえず適当な賃貸マンションを見つけて借りて、ほぼ毎日うちに通ってきている。だからって、何ができるわけじゃなく。こうやって暇をもてあましているわけだ。


 だからイギリスに帰れって言ってるのに。


「おう。デビ。おめぇ、いいところ知らねぇか」


 土方さんはデイヴィッドの名前が呼びにくいらしくて、デビって呼んでる。


 っていうか、異人だなんだって昔は言っていたのに順応力ありすぎ。もう彼らが日本人でないことも、人間でないことすらも気にしてないように見える。本当に気にしてないのかな。


「何よ。何のことよ」


 土方さんの言葉の意味が取れなくて、デイヴィッドが土方さんに聞き返した。


「女のいる店」


 土方さんがにやりと嗤うと、デイヴィッドも「まっ」と言いながらにやりと嗤う。


「知ってるわよ~。今晩でも行く?」


「おっ。そうこなくちゃな」


 そして土方さんがくるりと僕のほうへ向き直って、手を出した。


「おい。だから、貸せ」


 ああ。もう。どうしようかなぁ。


 僕が思わずその手を睨みつけると、デイヴィッドがくぃっとそれを掴んだ。


「いいわよ。お金ならあるから。あたしのお・ご・り♪」


 デイヴィッドの手の中から、慌てて自分の手を抜きながらも、土方さんは嬉しそうに言う。


「おう。じゃあ、今晩連れてけよ」


「まかして~」


 デイヴィッドが僕のほうを伺うように見るから、僕は行かないよ…という意味を込めて手を振ってみせれば、通じたようだ。


「じゃ、後で迎えに来るわね」


 そう言ってデイヴィッドは土方さんにウィンクしてから、ジャックと一緒に去っていった。一応、うちの周りを人に見られないように警護している…らしい。


 猫の子一匹来ないと言って文句言ってたけど、これだけ一族の空気が濃厚なところに動物が来るもんか。まったく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ