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間章  未来の世界

-------- 土方視点 ---------------


 見たこともねぇような場所へ連れて来られた俺に向かって、宮月の野郎は未来の世界だとぬかしやがった。否定したいが、目に映るものは見たことが無いものばかりで、こいつがもしも何かの仕掛けだとしたら、途轍も無いものだと思う。


 昼間のように明るい行灯、小さな人間が入っていて喋る箱、何で出来ているかわからない壁。木目なのに木の匂いも手触りもしない扉。家の作りは洋風なのに、どの部屋もせせこましい。


 おまけに宮月の野郎は、何かを見せるたびに期待するように俺の顔色を伺ってきやがる。横目で見てても気づくんだよ。そういうやつは。


 こうなると意地でも驚いてやるもんかと思うぜ。武士たるもの、敵に心中を悟られることがあっちゃならねぇ。いくら驚いても、顔色に出してなるものかと俺は決めた。


 考えてみりゃぁ、幕末の数年で刀が廃れて鉄砲が主流になり、髷を切って洋髪にしたんだ。あれから150年以上経っていれば、これぐらい変化があってもおかしかねぇだろう。


 ここへ来た当初、総司にお湯をじゃんじゃん掛けられたが、あれが「しゃわあ」とか言うものだと聞いた。捨我吾か? 我を捨てろってか? 俺は水掛け地蔵じゃねぇぞと思ったが、慣れてみれば温い滝みたいなもんだ。悪くない。


 一番辛いのは匂いだな。空気ががさついてやがる。まるで戦場みたいに火薬…じゃねぇが、何かが燃えているような匂いが始終してやがる。だがここではこれが普通らしい。


 音もうるせぇな。昼夜問わずに、何か大きなものが通りすぎる音が聞こえる。それに低いぼーっという音だ。宮月曰く、都市の音、街の音らしい。そんなもん、今まで聞いたことねぇぞ。人間にはよっぽどじゃねぇと、この低い音というのは他の音にまぎれて聞こえねぇ音なんだと。


 井戸はねぇが、その代わりに蛇口って奴をひねると水が出てくる。だが飲めたもんじゃねぇな。変な匂いがするといったら「消毒剤の匂いだよ」だと。なんだそりゃ。


 代わりにこいつを飲めといわれたのが、透明な筒に入った水だ。こっちも筒の匂いがするが、蛇口の水よりまだマシか。


 馬もいねぇのに動く箱、こうなったら人間が空を飛んでも驚かねぇぞ。てなことを総司に言ったら、「この時代、人間が空を飛んでいるんです」とぬかしやがった。与太かと思ったら、本当らしい。なんてこった。


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