第1章 再会(6)
そう言えば、あの時代ってわりとおおらかなんだよな。そういうの。綺麗な女の子に対する挨拶というか、からかいというか、そういう部分もあったみたいだし。人ごみにいけば、女の子のお尻を触り放題なんていう川柳があったぐらいだ。
僕はため息をついた。
「土方さん。それ、ダメだから」
「ああん?」
土方さんが目だけで僕を見る。
「女性の身体に触れちゃダメなんだよ。基本的に」
「あぁ? たかがケツだろ。乳を揉んだわけじゃねぇんだぜ?」
その言葉にレイラが睨んだ。
「あんな格好しやがって、触ってくれってばかりじゃねぇか」
僕はレイラをちらりと視線を這わす。
スラリとした足が見えるホットパンツに、胸元がざっくり開いた大きめでラフなTシャツ。Tシャツの裾を結んでいるから、白くてくびれたウェストがちらちら見える。
思わずため息が出た。
「それでもダメなの。外でやったらつかまるから」
「どいつに」
「警察」
「なんだ。そりゃ」
やれやれ。
僕はとりあえず床に寝転んだままの土方さんに手を差し出して身体を起こした。もう胸部はすっかり元に戻っている。
戻ったことを確認してから振り返った。これだけは言っておかないと。
「レイラも手加減しなさすぎ。普通なら死んでる」
「そいつは普通じゃない」
「そりゃ、そうだけど…。君の魅力に負けたと思って、少しは手加減してあげようよ」
「いやっ!」
レイラはそっぽ向いた。
「土方さんも謝る」
「何でだよ」
「勝手に触ったんだから、嫌がられてあたりまえ」
「ああ? じゃあ、いちいち許可取るのか? ケツ触らせろって」
僕は頭を抱えた。
「そういう意味じゃないんだけど。ああ。もう。現代じゃ、相手の同意なく異性の身体に触るのは犯罪なんだよ」
もう。なんで朝からこんな話をしなきゃいけないんだ?
弱りきっていたところに、軽くドアが開く音がして、総司と彩乃が現れた。
「どうしたんですか?」
総司が突っ立ったままの僕らを見て、小首をかしげた。その横で彩乃も小首をかしげている。二人して同じしぐさをしているのが妙だ。
僕はなんだか全部投げ出したくなって、両手を広げた。
「なんでもない」
そう言いきってしまえば、なんでもないことのように思える。
えっと…。多分。
レイラはまだ土方さんを睨んでいたけどね。まあ、いいか。
「すぐに食事にするよ」
レイラも土方さんも、全部放って、僕はフレンチトーストを作り始めた。




