第4章 お留守番(5)
水無月(六月)に入ってすぐに、近藤さん、芹沢さんを中心に十人が大阪へ出発した。大阪の不逞浪士を取り締まりに行くそうだ。
僕としては『いってらっしゃ~い』って感じなんだけど、ポイントは、総司、斉藤も入っていて、僕らの剣の先生がいなくなってしまうところだ。
代わりに平助と左之が教えてくれている。
左之は槍のほうが得意らしいから、いない間に槍を習うのもいいかもしれないな~。そういえば、よく一緒に見回りにいくことが多い安藤早太郎くんっていうのもいて、聞いたところによると、こっちは弓の名手だそうだ。弓道も面白そうだよね。いつか教えてもらいたいな。
そんなことを考えていたら見回りの時間になった。
いつもは総司がみんなを取りまとめて行くんだけど、不在の間は左之が一緒に行動してる。
先日の取り囲まれた件もそうだけど、最近は壬生浪士組は羽織のおかげもあって、少しずつ有名になりつつあり、睨みを効かせるという意味でもいいけれど、逆にわかっていて襲ってくる連中も増えつつあった。
近藤さんについてきた連中は、総司もそうだけど場慣れしている連中だから、躊躇なく相手をやっつけちゃうんだけどさ。だからこそ見回りのときには、最低誰か一人、試衛館の連中が来るのが暗黙の了解になっている。
幸い僕らが遭遇した襲撃は先日の一件だけで、それ以来は他のときに襲われたっていう話を聞いただけだ。
今日はなんとなく早太郎くんの隣にいて、話をしながら歩いていた。
「そういえば早太郎くんは弓の名手なんだって?」
うわさでしか聞いたことがない彼の腕前を聞いてみようと思って僕は話をふった。早太郎君は人懐っこい笑顔で照れながら首を振る。彼も見た目からいったら、総司や斉藤と同じぐらいの年か…。まあ、ちょっと年上かな。
「そんな…名手ってほどじゃないっすよ。ちょっと人より弓を射るだけで」
「またまた」
そう、この時代の人って、謙遜が美徳だからね。
もう一押ししないと、なかなか自慢話ってしてくれないんだよね。
あ、例外はいるけどさ。
「で、どうなの?」
「まあ、名手っていうか、東大寺大仏殿の回廊で通し矢を大量にやっただけっすよ」
「大量ってどのぐらい?」
「一万本」
「え? 何日もかかったでしょ」
そこで早太郎君は、ニッと笑った。
「一昼夜で」
「うそ~」
ちょっと待ってよ。一昼夜って言ったら24時間ぐらいだよね。
一時間に400本ぐらい? 一分で六本? 無理でしょ。
「って、自分で数えていたわけじゃないんで、よくわかんないっすけどね」
「それ、凄いじゃない!」
「そのうち八千本が当たったらしいっすよ」
そう言って、照れつつもニッと笑う。
いや~、本当だったら凄いけど。本当かな。
まじまじと早太郎くんの顔を見ると、早太郎くんはニッと笑った。
「ま、数えていた人が言った話っすから」
うわ~。
「うわーっ!!」
え? 僕の声じゃないよ。




