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第1章  再会(4)

 住居側と教会堂をつなぐドアを抜けて、教会堂の中に入る。ちなみにこっちは土足だから途中で靴に履き替えた。


 そして祭壇と聖歌隊の席とオルガン(さすがにパイプオルガンは置いてない。あれは結構値段が高いんだよ)の横を抜けて、裏側に入る。裏側には階段がついていて、二階にあがると日曜学校の教室だ。って言っても、窓があるちょっとした小部屋があって、子供用の椅子がいくつか置いてあったり、靴を脱いで遊べるようにマットが敷いてあるぐらいなんだけど。


 そしてその階段を二階に登らずに脇から裏側に回ると、地下室への扉がある。これが地下の倉庫だ。そしてその扉の反対側。ここに実は扉がある。ちょっと暗い上に、階段脇を通って後ろを振り返ることになるから見過ごすんだけどさ。そこから入ると、二階に登る階段の裏へ入ったことになり、扉の先に現れる階段を下りていくと、そこにもう一部屋あるわけだ。


 一応、地面すれすれに明り取りの窓も付いているから、昼間はそれなりに明るい。今は夜だから暗いけど、僕らの目だったら全然問題なしだ。それでも一応、一つだけついている明かりのスイッチを入れた。ぼんやりとした電球があたりを照らす。


「わぁ」


 彩乃が歓声をあげた。土方さんも付いてきて、大人五人。部屋がやや狭く見えるけれど、入れないことはない。


 ほとんどが木でできた壁や床を、楽しそうに彩乃が見る。


「秘密のお部屋みたい」


「かなり古いけど、いい部屋でしょ? あ、でも日曜日の朝だけはかなり煩くなるけど」


 僕がそう言えば、レイラが二段になった棚を見た。そこだけ天井が高くなっている。


「ここは?」


「聖歌隊が立つ台の下。物置だね。古い名簿とか置いてあったんだけど、ほとんど処分したから今は空だよ」


 総司がぐるりと部屋を見回した。祭壇に机に、古いソファが置いてある。


「祭壇は使ってないから倉庫に移そう。それからソファは処分して、ここに組み立て式のベッドを入れたらいいよ。奥がシャワー」


 木製の扉を開けると、タイル張りのシャワールームが現れる。本当にシャワーだけしかない狭いブースだ。


「使うなら、お湯が出るかどうかは、確認したほうがいいかも」


 シャワーの使い方を説明してから、僕は彩乃と総司を振り返った。そして思い出した一言を付け加える。


「ああ。そうだ。ここに来るなら、電話を引くか、携帯電話をオンにしておいて欲しいな」


 彩乃が小首をかしげた。かわいい。でも総司の手前、頭をなでるのはやめておく。


「どういう意味?」


「そのままの意味。ここからだと、僕たちの耳でも、君たちの声が聞こえるか、聞こえないかだからね。半地下だから防音性がいいんだよ。まあ、そこの二箇所ある明り取りの窓を二箇所ともあければ、風通しも良くなって、音も通るとは思うけど」


 そう。二人が旅行に行った後ぐらいから、ここを総司たちに渡そうかどうしようかと迷ってはいたんだ。ただし何もかもが古い。ついているクーラーも古い。電球も古いタイプだ。風呂もないし。どうしようか迷っている間に、こういう事態になったわけだ。


 でもそんなことは僕の杞憂だった。装備が古いことよりも、二人でいられるほうが良かったみたい。


 二人が顔を見合わせて、かなり恥ずかしそうに頬を染めて、でも嬉しそうにした。最後に総司が口を開く。


「ここを使わせてください」


「ああ。そうしたらいいよ」


 僕は思わず微笑みながら頷いた。


「そうと決まれば…」


 総司が言い出して、彩乃も頷く。


「お兄ちゃん。今から掃除してもいいよね?」


「荷物を持ってきてもいいですよね?」


 彩乃と総司が僕に詰め寄る。


「い、いいけど。寝ないの?」


「一晩ぐらい平気ですからね」


「だって、せっかくのお部屋なんだもん。ね?」


 総司と彩乃がにっこりと笑って、そして二人で、机やベッドの位置を相談し始めた。まったく僕らはお邪魔虫だ。


「行きましょう」


 レイラが僕の袖を引っ張って、そして土方さんにも視線で合図し、階段を登り始めた。


「幸せなんだな…」


 教会堂を出るところで、土方さんが後ろを振り返って、ポツリと言った。


「総司のやろう。幸せそうじゃねぇか」


 もう一度、確認するように言って、そして僕を見る。探るような目つきに、思わず問うように見返せば、にやりと嗤われた。


「寂しいだろ? 宮月」


「別に」


「素直じゃねぇな」


 僕はにやりと嗤い返す。


「土方さんこそ、寂しいんでしょ。総司が幸せそうだから」


「おい」


「土方さんも、この時代で幸せを見つけたら?」


 僕が言えば、土方さんは目を丸くした。でも僕はわりと本気だった。


「せっかく拾った命なんだから。有意義に使ったらいいんじゃない?」


 僕がそう言えば、土方さんは目を細めた。


「そうだな…」


 二階へと上がり、僕のベッドの脇に布団を敷いて土方さんの寝場所を作った。「眠れそうに無い」などと言っていたくせに、数分で寝息というか、もうちょっと積極的ないびきが聞こえてきた。疲れてたんだな。


 そっと部屋を抜けだして階段を下りていけば、レイラがキーボードを打っていた手を止め、顔を上げて問うように僕を見る。僕はひょいと肩をすくめた。


「He is sleeping so soundly.(熟睡してる)」


 レイラが微笑んだ。


「And you can't sleep.(そしてあなたは眠れないのね)」


 僕はため息をついた。


「その通り」

 

 ダイニングの戸棚からスコッチを出してレイラに振って見せる。


「君も飲む? まあ、酔えないけど、気分だけ」


「いただくわ」


 その返事に二人分のグラスを用意した。


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