第1章 再会(2)
彩乃がすっと視線を逸らした。その彩乃の手を総司がぐっと握って、土方さんをまっすぐ見る。レイラは傍観するように、面白がっていることが明らかにわかる表情で、僕らのやり取りを見ていた。
「彩乃は僕の妹。つまり人間じゃない。レイラも同じく。ちなみに僕らのいとこ。そして総司は…」
続けて言おうとしたところで、総司が僕を遮るように口を開いた。
「私も人間ではありません。労咳で死ぬ間際だったところを俊に救われました。そして今は彩乃と一緒に生きるために…俊の眷属として、一族として、ここにいます」
ね? と言って彩乃に笑いかけて、おずおずと彩乃が頷いた。
土方さんが、がばっと立ち上がる。
「ちょ、ま、待てよ。そんな話があるかよ」
そしてじりじりと後ろへと下がっていく。
「お、おれは帰るぜ。こんな話、信じられるかよ。に、人間じゃねぇとか。ありえねぇだろう」
僕は冷ややかに土方さんを見据えた。
「帰るって、どこへ帰るの?」
「は、はこ、函館だ。そうだ。俺が投げ出しちゃいけねぇ」
「もう終わってるよ。何もかも」
まだじりじりと下がる土方さん。僕は彼の正面に立った。
「いや、俺は帰る」
そう言ってスタートダッシュしようとした土方さんを僕が捕まえようとして、手が空を切った。動くと思った土方さんの身体は元の位置から動いていなかった。
「往生際が悪いですよ。土方さん」
いつの間にか土方さんの傍にいた総司。やるなぁ。僕が土方さんに集中していたとは言え、動く気配を感じられなかった。
そして今、その総司ががっちりと土方さんを背後から押さえ込んでいる。
「は、離せ。総司」
「逃げるようなことをしなければ、離します」
「逃げるわけねぇだろう。これは戦略的撤退だ」
「逃げているというんです。そういうのは」
僕はため息をついた。
「とにかく座りなよ。落ち着いて話そう」
土方さんがしぶしぶという感じで座りなおし、総司も土方さんの正面に戻った。
とは言え、なかなか言葉が出てこないも確かで。しばらくの沈黙の後、最初に口火を切ったのは土方さんだった。総司をじっと見る。
「おめぇ。なかなか洋装、似合うな」
とにかくなんでもいいから話そうとしたような話題選択。総司はその言葉に、へにゃりと笑った。
「ようやく慣れてきたところです」
「その女とも、すっかり上手く行ったようだし…良かったな」
「はい。おかげさまで」
土方さんの言い回しに、彩乃が問うように総司を見て、僕を見た。
「総司が彩乃に気があったのは屯所中が知ってたからね」
「えっ?」
彩乃が目をパチパチと瞬いて、総司が照れたように頭をかいた。さらに土方さんが追い討ちをかける。
「通じてなかったのは、当の本人のみっていう奴だな。総司のやろう、幹部会で『彩乃さんは天女です』とまで言い放ったんだぜ」
うわ~。そんなこと言ってたんだ。
土方さんの言葉に、彩乃が赤くなって総司を見て、総司は照れたように笑った。
「今でもそう思っていますよ」
「そ、総司さん」
照れつつも肯定する言葉に、彩乃のほうがますます赤くなる。
「おめぇらが消えた後の、こいつの落ち込みっぷりったら無かったぜ」
「ひ、土方さん」
今度は土方さんの言葉に総司が慌てた。土方さんは総司を面白そうに見てから、そして彩乃を見る。
「おめぇが何だろうと、こいつには関係なかったってことだな」
土方さんの言葉に彩乃が総司を見て、そしてもう一回土方さんを見て、はにかみながら嬉しそうに頷いた。
土方さんもいいこと言うじゃない。総司が再び彩乃の手をぎゅっと自分の手の中に握りこむ。
はい。はい。ご馳走さま。
「おい。で? この状況は何だ。聞いてやるから、説明しやがれ」
土方さんが僕を睨む。やれやれ。僕に対して俺様なのは変わらないらしい。
はぁ~。とりあえず大きなため息をついて…僕は土方さんに向き直って、そして説明を始めた。
僕らの一族のこと、父さんの能力のこと、そしてあの時代から150年ほど経った世界だということ。さらに、土方さんが連れてこられてしまったこと。




