第1章 再会(1)
まずは風呂。とにかく風呂。
あまりにも汚い土方さんのために風呂の用意をする。そして実際に入れるのは総司に任せて、僕は土方さんの着替えを用意すべく奔走した。
もう夜も遅いから普通の店は開いてない。幸いなことに近所のスーパーが24時間営業で、たしか日用品は二階にあったはず。とりあえずスウェットぐらいはあるだろうと思って、買いに走った。サイズ重視で購入し、戻ってきてタオル一枚の土方さんにスウェットを着せる。ブツブツ文句を言っているのを無視して居間へとつれていく。
土方さんがレイラを見てぎょっとして足を止めた。
「なんでぇ。異人がなんでここに…」
異人って…。ああ。もう。レイラが顔をしかめてるよ。
僕は無理やり土方さんをソファに座らせて、横に座った。正面に総司。その横に彩乃。彩乃と僕の間に、レイラがリビングから椅子を持ってきて陣取る。
「異人で悪かったわね。まあ、本当に人間じゃないけど…よくわかったわね」
レイラがむっとしたように言うから、僕は慌ててフォローした。
「異人っていうのは、昔の日本語で外国人のこと。攘夷って言って土方さんがいた時代は、外国を排斥する動きがあったんだよ」
そう言えばレイラが肩をすくめた。
「何? また過去の人?」
僕も肩をすくめ返す。
「父さんが連れてきた。僕と総司がいた新撰組の副長だ」
そして僕は総司を見た。
「総司。土方さんになんか説明した?」
総司が疲れきったように首をふる。
「それどころじゃないですよ。シャワーにせよ、ボディーソープにせよ、嫌だ嫌だ、で。本当に大変でした」
そして、ほぉっと深いため息をつく。
あ~。総司のときは楽だったな~と思わず現実逃避をしかけて、僕は土方さんのほうを向いた。
「えっと…。なんて言われてここに?」
土方さんの目がギロリとこちらを見る。
「何も言われてねぇよ。戦場で動けなくなって、死ぬかと思ったら、あの異人が来やがった。この国の未来が見られるし、未来を作ることもできるっていうからよ。助けてもらったら、訳の分からねぇことになってやがる」
そしてぐるりと今度は身体ごと僕のほうへ向いた。
「説明しやがれ。何がどうなってやがる」
思わず助けを求めるように総司に視線をやれば、総司がゆるく首を振った。
「土方さんが亡くなったのは…明治二年です」
ぽつりと言葉が返ってくる。
「おっ?」
総司の言葉に土方さんの視線が動いた。
「よく知ってやがるな」
「調べましたから。皆さんの…最期は…」
そう言ってから、総司は一瞬視線を下げてから、また土方さんに視線を戻す。
「生きて…いたんですね」
「おめぇもな」
土方さんがにやりと嗤う。
「それで? 宮月。一体ここはどこだ? 戦はどうなった。薩長の奴らは?」
やれやれ。そこからか。
「ここは約150年後の日本。土方さんを連れてきたのは、僕の父親で…多分、土方さんは、父さんの眷属になったんだろうね」
「ああん?」
「死に損なったところを拾われたんでしょ? 大怪我してたんじゃない?」
「そういや、撃たれたな。起きたらいつの間にか治っていやがった」
土方さんはそろそろと自分の腹を見ながらさすった。
「はあ。やっぱりね。一族へようこそ」
僕がそう言うと、ぱっと顔を上げて、僕を見る。
「そいつぁ、あの異人からも言われたぜ」
ああ、やっぱり。総司と彩乃も、小さく息を吐く。
「一族ってぇのは、なんだよ」
「平たく言っちゃえば、人外。アヤカシ。現代風に言うならば吸血鬼。ヴァンパイア」
土方さんが恐る恐るという風で口を開いた。
「つまり、なんだ。まさか、おめぇらの仲間になったってぇ言いたいのか」
僕はため息をつく。
「そのまさかだね。僕らの仲間になったから、傷も治った」
土方さんがぎょっとした顔になる。
「な、なんだよ。じゃあ、何か? 俺も羽根とか尻尾とか生えんのか?」
慌てて自分の背中やら尻を触って確認を始めた土方さんに、僕はさらに大きなため息をついた。
「何、馬鹿なこと言ってんの。生えないよ。そんなもの。生えてくるもんじゃないんだから」
「だって、おめぇ」
「僕の場合は、生まれたときからある。それだけの話。僕はもともとそういう生き物なんだよ。人間じゃないから」
土方さんが目を見開いて、まじまじと僕を見た。
「宮月…おめぇ、やっぱり」
「はいはい。人間じゃないよ。そんなの。あのときに翼を見たんだから分かってたでしょうが」
腕組をして、呆れながら横目で見れば、土方さんは彩乃を見て、総司を見て、そしてレイラを見た。
「まさか」
土方さんの目がじわじわと見開かれる。




