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第9章  日常?(2)

 二人で総司の真似をして、背中を意識して素振りをしていたところで、教会堂の扉が開いて、柳瀬くんが顔を出した。そして中を見て一瞬ギョッとした表情をした。


「あ~。はろー。あ~。マイネーム イズ コウジ ヤナセ。ナイス トゥー ミーチュー」


 レイラを見て慌てて英語で挨拶をしている。ずいぶん母音がキツイ発音だ。レイラはにっこりと微笑んだ。


「こんにちは~」


 流暢な日本語に柳瀬くんは目を白黒させた。


「え、えっと」


「あ、柳瀬くん、こっち」


 僕が呼べば、柳瀬くんがレイラのほうを振り返りながら、僕らのほうへ近寄ってくる。


「えっと…あの人は?」


「ああ。僕のいとこ。今日は見学」


「えっ! お兄さんのいとこってことは…彩乃ちゃんの…ばりばり外人じゃないですか」


 僕はひょいと肩をすくめた。


「まあね。でも日本語は話せるよ」


「はあ」


 柳瀬くんは何かをいいたそうだったけれど、総司を見て姿勢を正した。


「本日の稽古、よろしくお願いいたします!」


 ピシリと挨拶をする。おお。なんかそれっぽいじゃない。


「着替えたら始めましょう」


「はいっ!」


 思わず僕はにやにやと笑ってしまった。


「な、なんですか」


「優しいじゃない。総司」


「俊が言ったでしょ。優しくって。言った通りにしているだけです」


 まあね。あの時代みたいに、『そこっ! 握りが違います! 甘いっ! もう一回!』とかやってたら、すぐ辞めちゃうしな。総司って言葉遣いは丁寧だけど、内容はリトル土方さんとか、リトル近藤さんとか、そんな感じだったし(笑)


 教会堂の隅でごそごそと柳瀬くんが着替えている間、僕らはまた素振りを始めた。そこへ扉の開く音がする。


 もう誰もこない予定だし…李亮かな? そう思って視線をやれば、そこに居たのは南部くんだった。南部修平くん。彩乃の剣道の友達だ。


「あの~すみません」


「どうしたの?」


 彩乃が応えながら、パタパタと小走りに扉まで行った。


「彩乃ちゃん」


「うん。どうしたの?」


 彩乃が小首をかしげる。


「えっと…彩乃ちゃんがここで剣も習ってるって言ってたから…。見てみようかなって」


「ほんと? じゃ、こっちに来て」


 二人が僕らの傍にやってくる。


「総司さん。剣道のお友達の南部修平くん。見学したいって」


 総司が柔らかく微笑んだ。


「どうぞ。歓迎します。お好きなだけ見ていってください」


 そして稽古が始まった。


 僕と彩乃は真剣で素振りや形の稽古。柳瀬くんは総司が付きっきりで、木刀を使って素振りをやっていた。


 ちらりと見れば南部君がちょっと退屈そうだった。うーん。少しパフォーマンスするか。弟子が増えれば総司が喜ぶだろうし。


 教会の隅においておいた木刀を二本持ってくる。


「彩乃。打ち合い」


 そう言って渡してからこっそりと付け加える。


「『普通の』スピードね」


 普通の…のところにアクセントを置いて言えば、「わかってるよ」とそっけない返事がきた。冷たいなぁ。


 すっと晴眼に構える。彩乃もだ。総司はちらりと僕らが構えたのを見て、柳瀬くんと二人でこっちに来た。


「いいよ。おいで」


 そう言えば、彩乃がにっこりと笑う。


「お兄ちゃんこそ。かかってきなさい」


 おっ。言ったな。まったく。僕は目をくるくると回して見せた後で、一足で間合いを詰めた。


 カツンと木刀が当たる音がする。南部くんと柳瀬くんの息を飲む音が聞こえた。


 彩乃が力を入れて弾いたのを受けて、やや後ろに下がって、そしてまた打ち込む。そこから左右の切り替えしと、足への攻撃を入れた三箇所の打ち合いが始まった。


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