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第9章  日常?(1)

「俊、たまには稽古しないと忘れますよ」


 あの事件から割りとすぐの土曜日。総司に声をかけられて、僕は久しぶりに剣の稽古をすることにした。せっかく斉藤から習った技を忘れちゃうのはもったいないしね。


 実は彩乃も少し前から、土曜日の稽古にたまに参加している。今日も彩乃は参加するそうだ。


 結局あの後に居座っているレイラも教会の片隅に陣取って見学を始めた。


 そろそろヤナセくんも来るだろう。ああ。そうだ。ヤナセくんは、柳瀬浩司くん。とりあえず、なんだかんだ言いながらも来ている。


 この前は「沖田先生は厳しくて…」と零したので、思わず苦笑いした。あの時代に総司から稽古を受けていたら、すぐに逃げ出していたに違いない。



 僕が斉藤から習った形を一つ一つ思い出して抜いていると、彩乃と総司が並んで僕の動きを見ていた。


「斉藤さんの動きですね」


「まあ、そうだろうね。教えてくれたのが斉藤だし。そのまま覚えたから」


「懐かしいです」


 鞘引きして、下から斬りつけて、上で腕を返して降ろして納刀する。これ、最初はできなくて、鞘を相当削ったっけ。抜き打ち様に横一文字で斬りつけて、それを頭の上で旋回させて真っ向から斬り降ろす。鞘と刀の動きが一緒になるまで、かなり練習した。


 鞘を横にして、後ろに身体を引いて刀を切っ先一寸まで抜く。そのまま突く。この切っ先一寸まで抜くというのが出来ずに、本当に苦労した。


 僕がいくつか形を披露していると、総司が僕の傍に来た。


「やっぱり俊も腕だけで振る癖がありますね」


 そう言って背中を撫でる。


「斉藤にも言われた。腕の力だけで振るって」


 総司が苦笑いする。


「まあ、仕方ないんでしょうけどね。それだけ力がありますから。でも本来であれば、身体全体を使うものですよ。もっと肩甲骨を意識してください」


 くっと僕の背筋を伸ばす。


「剣は腕で振らない。身体で振るものです」


 そして彩乃を見る。


「彩乃にも同じ癖がある」


「そう?」


 総司は頷いた。彩乃がおずおずと剣を上段に構える。その背に総司が手を添えた。


「それに彩乃は前に重心がかかりすぎる。剣道…あの動きだと、どうしても重心が前に行く。そして押し斬りになる。その癖かな」


 総司が淡々と彩乃に説明をした。


 敬語じゃないと総司の言葉って短く感じるよね。総司は僕をちらりと見て、そして刀を構えた形で説明をし始める。


「本当は刀は引き斬りで、重心は中心。またはやや後ろ。後ろにある足に力を入れるんです」


 それから彩乃と僕の前で、上段に構えて、すっと素振りをして見せた。


「本来であれば、この振り下ろして弧を描くときに引き斬りになります」


 思わず二人で総司の素振りに見とれる。やっぱり綺麗だ。斉藤も無駄がない動きで綺麗だと思ったけれど、それとはまた違う形で、見とれるものがある。


 しなやかに上がる刀。振り下ろされてピタリと止まる切っ先。

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